本と怒り

加藤み子
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公開:2024/10/17

 悲しい訃報をたくさん聞いた日だった。仕事先の知人の流産、昔好きだった同年代アーティストの突然死、知っていた程度の役者の死のニュース。そんな日に韓国人男性の推しが約1年半の兵役の義務を終えて転役した。なんというか、案の定おかえりー!みたいなテンションには全くなれず、戦争反対・徴兵制反対の気持ちと大きな怪我なくまた健康で元気な姿を見せてくれたことへの安心感みたいな気持ちとの間でぐちゃぐちゃな感情だった。もう誰の軍服姿も見たくないが、世界にはまだまだ今も暴力と搾取が存在する。

 先日、近所の図書館のリサイクル市へ行った。普段利用している館ではなかったので施設内の勝手がわからず少々戸惑ったが、無事に11冊ほど購入してほくほく幸せな足取りで職場へ戻った(仕事があった日に数時間の休みを取って向かったのだった。そこらへんフレキシブルに対応可能なので有り難い。フレックス制度も在宅ワークも日頃からかなり活用している)。私にとって本を買う行為にはそれ自体にストレス解消、リラックス効果があるようで、本屋やマーケットを歩いて陳列を眺めているだけで胸がいっぱいになるし、例え購入した本が積ん読の山の新たな頂上になろうと「ある」というだけで幸福感に満たされる。

 そして今日、予約していた好きな作家の新刊が自宅に届き、丁重に包みを開けながら神妙な心地になった。イスラエル軍に燃やされていたガザの本たちを思い出していた。

 人生。ここでピカピカな表紙を撫でて呑気にしているのに、隣では物・人もろとも殺されている状況が恐ろしく、気持ち悪い。なぜ人間は歴史から学ばないのか? 最近、ずっとやりたいと思っていたタトゥーを入れるために良さげなお店を探している。自分でよく目に入りそうな手首の裏とかに「rage」と入れるつもり。

Do not go gentle into that good night.

Rage, rage against the dying of the light.

 ーDylan Marlais Thomas「Do not go gentle into that good night」