「私は、ビヨンセではありません。」

加藤み子
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 所属について考えていたときに分類の話がやって来て、「類似~」と思ってこれを書き始めている(この感覚もまた所属であり分類)。

 人間は社会的動物なので、割と常になにかしらに属して日々生きているわけだけれども、私のこれまでの人生の中で最も所属の概念が危うかったのは浪人時代のことだ。自宅で勉強だけをするいわゆる宅浪だったから、予備校に通っていなければ運転免許も持っていない、つまり道端で身分証明を求められても何も提示できるものがなかった。学生でも社会人でもない存在になって、宙ぶらりんだなあと感じて初めて、どこかの組織の一員でいられることの安心感に気付いた。

 ところで、私は韓国アイドルグループのBTSが好きです。つまり私はARMYです。ARMYとはBTSファンたちの総称で、これ、本当にわかりやすくて、私は個人としてBTSのファンだがそれはつまりARMYというファンダムに属していることになる。この「ファンダムという集団に所属している感」が、KPOP文化圏内では非常に強い。よってこれによる摩擦や疲労もよく見られる話だが、実際少し前の私もそれに陥っていて、ファン同士コミュニケーションを取って楽しくやっていくことに辟易したタイミングがあった。

 そんな時期を経て、今はわりとフラットな気持ちでBTSのファンをやれている。昔はそれ用のSNSアカウントを作って感想や興奮をファンたちと共有していたが、今はただ個人で楽しんでいる。twitterでたまに呟くことがあるくらいで、私生活で会う友人や配偶者とたまに語り合うくらいで、インターネットARMYとの交流はない。意識的に、ファンダムに属することよりファンでいることに重点を置いている。

 いつから所属を重んじるようになったのか。私は。人類は。…(人類の話になればきっとこういう分野の研究をされている方もたくさんいらっしゃるだろう)。生まれてから、家族という組織体に所属することに抵抗してきた人生だったし、学校や職場での組織分けに愛着なんて皆無だが、唯一、所属感に安心した経験が私にもある。

 バイセクシュアルという言葉を自分事として捉えた瞬間、私は、その「ここに所属している」という感覚にしっくりきて安心感に若干泣いた。言葉との出会いに救われた経験は人並みにあるが、所属感そのものに救済を得たのは記憶上ではこれだけだ。バイフラッグを身につけてデモに行くことを誇らしいとさえ感じる。正直、それ以外の例えばジェンダーアイデンティティの部分では、「シス女性」も「ノンバイナリー」もどちらもしっくりこなくてフワフワしているし(今はそういうものなんだろうと思ってこの状態を楽しんでいます)、性表現に関してもまさに試行錯誤の真っ只中だが、バイという括りだけは感激するくらい属せて嬉しい。

 創作活動の話に移る。かつて私はこれについてかなり悩んだ経験がある。(おそらくご存知の方もいらっしゃると思うが、)私は以前、決して愛ではない暴力による共依存関係をB"L"(ボーイズ・"ラブ")として発表してしまって、罪悪感で死にたくなったり、書いた小説への自己評価に自尊心の低さによる卑下が入ったことで馴染みのない賞に応募して、過去の自分を恨むほど後悔したりした。

 結局、どの界隈であれ、分類とは絶対的な線引きではないものだとようやく理解して、今、自分の中の判断で自分のものを振り分けている。私が書いているものは純文学だ。今後書きたいのも、上を目指したいのも、純文学だ。その中でクィアロマンスを書くことも好きなので、メインの描写が男性同士の場合、読者の裾野を広げたくて創作BLのカテゴリを使用することもある。そして、暴力を行使することによって共依存関係に陥っている状態は「愛」ではない。愛だというなら搾取があっていいわけがない。愛する人の人権を、尊厳を守れ。(と私は思う。)

 他者から乱暴なラベリングをされることは時に死がちらつくほど辛い。ミスジェンダリングは相当危険だ。世の家父長制風土を維持させたいからといって既存の家族という規範に他人を押し込むのは政治家のすることではない。精神が疲弊するほど人と一緒に推し活をする必要はない。健全なバウンダリーはとても大事。でも、どこにも属さない自分や属する場所がわからない自分を、何者でもないと責めることは絶対にしてはいけない。

 その、塩梅を。帰れるところがもしあるなら、境界をしっかり引きながら、その家が本当に安全で快適かどうか、その家にどの程度の重心を置くか、考えながら社会を生きていこう。そして帰れるところがなくても、わからなくても、私は私であり、あなたはあなただ。

西加奈子『わたしに会いたい』の写真。「私は、ビヨンセではありません。」という一文にマーカーが引いてある。

(西加奈子『わたしに会いたい』の写真。「私は、ビヨンセではありません。」という一文にマーカーが引いてある。)