126 無職になるとは思わなかった

鯨日記
·

早朝目が覚めると雨が降っていたのに再び眠った後カーテンを開けると嘘みたいな快晴であの雨は夢の中でのみ降っていたのかと疑うも窓についた水滴がそれを否定していた。いつも洗濯が終わるまでが楽しい。洗濯槽が回転している様子を見たくてわざわざ蓋を持ち上げて煙草を吸いながら「ふうん」という眼差しを向けたりしている。年季の入った埃の被った洗濯機。ただ濡れて重くなった洗濯物を引き揚げるのはいつだって億劫で、YouTubeやXを見ていたりするとあっという間に十五分、二十分と放置してしまう。今朝もそろそろ干すかというころには昼過ぎになっていた。乾くといいなと思いながらマクドナルドまで自転車を走らせる。花粉で目を開けるのがしんどくて薄目で運転していたら飛び出してきたおばちゃんを轢きそうになる。春だった◆今日から働くつもりだった。そのために職場の近くに三月、引越しをした。なんか詳細伏せて書くのかったるい。全部書きたい。でも伏せておく。端的に説明すると働けると思っていた職場から連絡が来ず、無職になってしまった。今朝一応電話で確認してみて、やはり今の所は仕事がないですね、と声色ひとつ変わらずに言われた。わたしも声色ひとつ変えずに「そうてすか」と礼を伝えて電話を切った。予測できない事態ではなかった。でも人手不足の職種だし、声がかからないとは思ってもみなかった。それは私の周囲の人間とも見識が一致していて、だから冗談ぽく自虐ぽく、「ただ引越しただけの無職になる可能性もある、、」と言うと「いやいや笑」という反応を皆から貰って、そのやりとりでどこか自分を安心させてきていた。だから今回は、今までずっと片目を瞑って見ないようにしていた悪い予感が見事的中した形になる。クリティカル・ヒット。鮮やかなブル。焦りはない。悲壮感も全くなく、でもそれは告別式で泣かないみたいな強がりかもしれない。或いはまだ現実だとして捉えられていないのかもしれない。後者の方が強い。他の仕事を探す意欲も湧かず、知人から差し伸べられた手があればまあ掴むか、くらいの気概で体育座りをして社会の底で浅く息をしてみる。深海魚のように滞留する瓶の底を優雅に回遊してみたい。巻き上がった砂や泥で視界が不明瞭でも深海魚は自身の目指すべき方角を見失わないでいられるのだろうか◆マクドナルドで一丁前にアイス・コーヒーを啜っている。ここで「助けてください」と周囲を上手に頼れる人間が大成するんだろう。わたしはかわいくなかった。だって何とかなると思っているから。でも今は何とかなるための努力を怠ってい、だから景色のように過ぎ行くチャンスを毎秒無駄にしている感覚だけがある。2024.4.1