84 マクドナルド

鯨日記
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洗濯機を2回回す。古い柔軟剤が切れたから新しい柔軟剤に変えた。シャツの皺を伸ばし物干し竿に掛けながらYouTubeで『花束みたいな恋をした』のティザー映像を見る。本当は調布に行って『紅の豚』の再上映を観たかったのだけれどどの回も予約で満席だったから諦めて近所のマクドナルドに行った。昨日レンタサイクルで帰ってきたので家の駐輪場に愛車の姿はなくて散歩がてら歩いて向かう。炙り醤油風ダブル肉厚ビーフセットをモバイルオーダー。16時今日最初の食事。スーツ姿の団体客、老夫婦、新聞を広げる男性、イヤホンをしてスマートフォンを操作する女性。離れた席で中学生が二人、学校で習ったばかりと思しき歌をかなり大きめの声でハミングして、何人かの客が顔を上げ、すぐ自分の作業に戻る。マクドナルド・ラジオからはオードリーのオールナイトニッポンとCreepy Nutsの声。他に何も要らない、完璧な日曜日のマクドナルドの姿がそこにあった。わたしは何をやっていたんだっけ。そうだ、引っ越しの計画を立てて、自分で運搬をやるからレンタカーを予約したんだった。でもそれだけだった。読みたかった本は読めなかったしやりたかったことは他にもあったはずなのにいたずらにラップトップのバッテリーを消耗させただけだった。でもマクドナルドはハンバーガーを食べに行く場所だから別にいいやと開き直る。帰りに薬局に寄って化粧下地を買ってスーパーでひき肉を買ってついでに引越し用のダンボールを貰ってきて昨日駅に停めていた自転車を回収した。仕事したくねー。なんか楽に稼げる仕事ってないのかよ。要らない臓器が一個くらいあるんじゃねーか?チョチョイっと書いた小説で出版社さんよ養っておくれ。無条件に抱きしめておくれ。結局ダラダラとマクドナルドにいてふと顔を上げたらさっきまでいたサラリーマンも中学生もお姉さんもみんないなくなっていた。わたしも早く自分の人生に戻らないといけなかった。いつまでも現実から目を背けたかった。傾いた陽は今日死ぬ人にとっては祝福みたいな眩しさでマクドナルドの一席で奏でるハミングは聖歌みたいだった。わたしだけが上げた顔を戻せずにいた。2024.2.18

@kujuranosenaka
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