駅まで歩く道すがらに三件電話を掛けた。①病院。再来週の予約を無理言って今週に変更してもらった。ローマ字のMを電話越しに説明してもらう時に「あの〜Mcdonald'sのMです」と言われてから、まだ行ってもないのに信頼している病院だった。マクドナルドのエム。いい。一瞬でマクドナルドのあの匂いを嗅ぎたくなる。電話越しのお姉さんもちょっとだけ口調が楽しげだったような気がする。②母。事務手続きの確認。「あの手続きって引き続きやっていいんだよね?」「うん、いいよ」今から仕事やから電話取れない。そう、頑張って。はい。③元職場。事務手続きの確認。先月まで在籍していた○○です、と伝えると「あら〜!元気やったん?」と明快な声が返ってくる。電話に出たのは仲良しの事務の人だった。お酒が大好きで、四国が故郷で、いつもわたしの健康を気遣って野菜ジュースやお菓子やらを毎日のようにくれた人。「久しぶりに○○さんの声聞けて嬉しかったです」と伝えるとウフフと笑ってくれた。おそらく母親と同じくらいの年代の人で、お酒が入ったり笑ったりする時の表情がセクシーな人だった◆帰りの電車は大好きな作家の新刊を読んでいたらあっという間に最寄り駅に着いていて、タルタルチキン弁当とコロッケ2ヶを買って帰った。ドアを開けると花の匂いが部屋中を満たしていて、暮れの青色が開けた窓から滲みひろがっていた。手を洗う前に弁当を電子レンジのターン・テーブルに載せて加熱する。換気扇の紐を引っぱる。恋人と別れてからというもの、光の灯るあたたかい部屋に帰ることの感傷がしばらく日々から欠落している。今の生活は自らが望んだものに囲まれていて幸福で満ち足りているはずなのに、こっくり油断していると「お前はこのままで良いのか?」ともう一人の自分が問いかけてくる。ターン・テーブルの回転が止まる、加熱が終了したことを知らせる「チン」という間の抜けた音がして、生活にメリハリと編集点が生まれる。街にはマンションもアパートも腐るほどあって、光の灯る部屋が無限にある。でもその光はどこまでいっても誰かの光で、自分だけに灯された光を落とし、今日も丸くなって眠る。2024.4.15
酔い潰れたり面倒がって翌日になって昨日のことを書くことが多い
X: @kujuranosenaka