二日間髭を剃っていない。ひどい顔で役所に行き、転入手続きをした。レンタカーの予約時間が迫っていて今朝はメイクする余裕がなかった。わたしの対応をしてくれた窓口のお姉さんは綺麗なパープルのインナー・カラーを入れていて指先には豪華なネイルが施されていた。それはきらびやかと言うか、ゴージャスと言う方が相応しかった。最近フレンチネイルというのをTwitterのフォロワーに教えてもらったのだけれど、多分それではない。なんて言うのかはわからない。でもゴージャスだった。自分だったら市民に書類の説明をする度に自分の爪が視界に入って嬉しくなると思う。「窓口での手続きが長引いた場合でも駐車券は一時間のみ無料です」という貼り紙があったから少し駆け足で車に戻ったけれど、5分ほどオーバーして結局200円を払う。二枚目に入れた100円が正しく認識されず入れ直す。バーが開く。ゴージャスなネイルに見惚れていなければ間に合ったのだろうか◆新しい部屋には業者のミスでカーテンレールが取り付けられておらず、今日その業者が新居に来た。2人組のおじさんで一人はひょうきん、もう一人は寡黙だった。彼らの作業と並行して引越し荷物の運搬をしていたらひょうきんの方が窓を開けて「鯨さあん、これってどなたのカーテンレール?」と尋ねてきた。多分備え付けのだと思います、と私は答えた。チョチョイと終わらしますよ〜という冒頭の言葉通り、彼らは10分ほどで作業を済まし軽トラに乗って颯爽と帰っていった。彼らの纏う雰囲気が都会のそれじゃなかったから出身地とかを聞いておけば良かったと少し後悔する。二回に分けた引越しのうちの一回目が終わった。帰りの首都高速道路は早起きの反動で睡魔が襲い「眠い❗️」と怒鳴りながら丁寧に車線変更をした◆今日は風がとても強くて花粉が多く飛来したのだろう、物寂しくなった今の部屋に戻ると目が痒く鼻水とくしゃみが止まらなくなった。「咳をしても一人」と俳人の尾崎放哉はよく言ったものだ。彼が花粉症だったらどんな歌を詠んだろう。彼もこんなうら冷たい部屋であの歌を詠んだのだろうか◆点滅社の『鬱の本』という本を読んでいる。84人が寄稿したそれぞれの鬱の話をまとめた本。文字が読めなくなっていた時期に読み始めて、するすると読める。寄り添ってくれる。自分のことを書いてもらっているような、そんな心強さが湧き上がってくる。一人じゃないよとずっと言ってもらいたいのに一人じゃないよと言われると尻込みしてしまう私はめんどくさい人間で、まだ途中までしか読めていないけれどこの本に寄稿している人はみんなただ自分の鬱にまつわる話をしていて、あなたにこうして欲しいとか、何かを強制したりはしてこない。そのことにどれだけ救われる心があるだろうか。私にとっての救いのような本はいくつかあって、そのひとつになりそうだった。役所の窓口にいたお姉さんが仕事に疲れた時自分のネイルが目に入って少し救われるとして、あのネイルがお姉さんにとっての祈りだと仮定するなら、私にとってのいくつかある祈りのひとつにこの本がなってくれる予感がする。もう既にたくさん折り目をつけた。寂しい夜にそっと読み返すだろう。2024.2.26
酔い潰れたり面倒がって翌日になって昨日のことを書くことが多い
X: @kujuranosenaka