朝。5分ごとに鳴るアラームに「うううるさい!」と叫ぶ自分の声で起きる。ソファにだらしなく掛けられた上着をひとつ引っこ抜いて羽織り、ずっと捨てられず玄関に溜まっていたゴミを掴んで外に出る。眩しくて目が開かない。近所のおばさんと特に声を交わす訳でもなく並んで歩きながらゴミ捨て場までの道を歩く。ゴミを捨てれたことが新鮮にうれしい。真新しい朝に部屋が軽くなる。シャンプーを使い切ることや醤油の残りひとさしを使い終える時とどこか似ている達成感のようなもの。その勢いで溜まっていた洗濯を回して、いつ買ったかわからない玉ねぎをぜんぶみじん切りにして(途中で心が折れそうになった)半分はジップロック、半分はキーマ・カレーにした。仕事がある日は帰りが遅くなるから晴れていても浴室に洗濯物を干す習慣がついた。
いつも会社の非常階段の裏側で煙草を吸っている。階段の裏は狭い。『ハリー・ポッターと賢者の石』でハリーが生活していた階段下の物置を想像するとわかりやすいと思う。人目につかないように階段の形に合わせて体をくねらせながら吸っていると、もし今死んだらへんなかたちになった骨で発見されて、考古学者を困惑させかねないなと空想する。指の関節が軋む度に血が滲む。ハンド・クリームは持ち合わせていない。今日は風が強くて落ち葉が街のいたるところに溜まっていて、蹴り上げながら歩いていたら二度こけた。ビルの清掃員の方々にはいつも感謝しているが、落ち葉を掃く仕事と雪を掻く仕事はしなくていいよと思う。それらを掻き分けて歩くのが好きだから。こっそり経費で絆創膏を買いたい。空になった炊飯器の保温時間を見たら二十五時間になっていて、わたしは約丸一日で三合を食べているのかと思うと恐ろしくなった。いつまで成長期でいられるだろう。冬になるとエドモンド・ヨウ監督の『ムーンライト・シャドウ』を思い出す。退屈な映画だったけれど心を掴まれて離れない場面が幾つかある。『ベイビーわるきゅーれ』『パルプ・フィクション』『ちょっと思い出しただけ』『ソラニン』『チワワちゃん』あたりの映画を見返したい気分。今は村上春樹の『ダンス・ダンス・ダンス』を読んでいる。今日人からもらったビスケットがおいしくて嬉しかった。ポケットをたたくとビスケットが出てきてほしい。2023.11.28