118 犬とフローリング

鯨日記
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例に漏れず深酒の予定があるため事前に日記を記しておく。電車からの景色はまだ見慣れない。四月からの仕事はまだ決まっていない。AirPodsから音楽が流れる。左耳に嵌めているデバイスをダブル・タップすると曲が前にスキップされる。右耳は次のトラックへとスキップするよう設定している。ループ再生はしたくないけど同じ曲を何度も聴きたい時は左耳をトントンと叩く。するとそれに呼応するように、左耳に通している二つのイヤーカフが重なり「チャチャ」と音が鳴る。犬がフローリングを走る時のような間延びのした音。犬飼ったことない。猫飼いたい。顔を埋めてほしい。たくさん撫でたい。もう他の生き物を愛せなくなるくらい一匹の猫を愛してみたい。でも実家は団地だったからノウハウがない。猫の飼育歴があるパートナーを見つけることにする。寒くはないけど手がかじかんでいるのは雨が降っていたからだろう。右隣に座っている人はカラフルなリュックサックを胸に抱え、左手には食パンの袋が握られていた。腕の側面は水滴が付着してい、それが私と重なる。通過駅に止まり左隣の乗客が降りる。電車の端の席が空いたから横にひとつずれる時いつもちょっと隣の人に申し訳ない気分がする。それは自分がされた時一抹の寂しさを感じるからだと気づく。日記を書くことが好きだ。今この瞬間考えていることを永遠に忘れないでいられる。恥ずかしいことや思い出したくないことは書かなければなかったことになって、やがて忘れられる。いいところだけ覚えておく。どうでもいいことばかり覚えていたい。誰かに私のどうでもいい一面だけずっと覚えていてほしい。2024.3.24

@kujuranosenaka
酔い潰れたり面倒がって翌日になって昨日のことを書くことが多い X: @kujuranosenaka