134 きえてしまわないで

鯨日記
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五時半に起きて準備をして大雨の中を歩く。駅に着く頃に無印良品のレイン・シューズはぐっしょり濡れていた。昨日見た桜は午後に吹いた強風であらかた散ってしまった。アスファルトの窪みや車のワイパー、カーブミラーや階段にまで花弁は見苦しく張り付いていて、それは最後まで街を色染めようという悪あがきにも見えた。花に嵐のたとえがある通り、すべてはさよならに収斂していった。桜でさえ散れば汚くなる。お風呂場の排水溝に溜まる髪の毛みたいに。さっきまで美しくて、今はもう美しくないもの。それでも桜は卑しく自分の美に縋っていて、だから元々美しくない私のような人間が生きているのは最初から神に見放されている出来事で、だから生き死には関係がない。ならまだきえてしまわないように、人様には最小限の迷惑だけを掛け続けて少しだけすきなことをしてみる◆『よつばと!』15巻を読まなければいけない衝動のままに読み切った。この漫画はなんでもない街や風景のカットがすごくいい。一瞬で懐かしい気持ちになれるのは、誰しもの心にある思い出の町にその風景が重なるからだろう。交差点に差す夕陽。アパートの上に伸びる電線と広く曇った空。いつか見た景色◆fire tv stickを刺したテレビであたしンちを見ている。なんで見ているんだろうと思って、何も考えないでいられるからだと気づき、私は今何も考えたくないんだと後天的にわかる。頭を徐々に空っぽにしていく過程として夜と睡眠がある。朝になると完全に生まれ変わったおれがぱちくりと目を覚まして、窓を打つ雨の音が脳の起動音になる時もあれば、眩く差す朝日の中で何かを待ち侘びるように鳴く鳥の声の時もある。今朝は雨だったから明日は鳥がいい。朝を迎える理由は、とりあえずそれでいい。2024.4.9