188 花束を待っている

鯨日記
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荒れている。昨日の夜、家に帰ってから心を掻き乱されることがあった。私の眼前から消え去ったはずの過去だった。風邪をひいていた後輩に電話を入れて銃弾のように言葉を投げかけた。事情を全て知っている後輩は煙草を吸いながら聞き役に徹していた。コンビニで手当り次第酒とつまみを買い込み浴びるように喉にそれらを流し込んだ。吐きたかったがわたしの胃はそれらすべてを吸収し、その後は沈黙を保つのみで物足りなかった。朝起きがけに飲み残した缶チューハイをひといきで飲み、昼にも酒を飲んだが酔いも吐き気も一向にやってこない。出品しているメルカリの商品がなかなか売れないことに業を煮やし他出品者との均衡を破る破格の値段で売り叩くとすぐに買い手がついた。キッチン・マットが湿っていてそれが昨晩零した酒であると気づくのに時間はかからなかった。丸めて洗濯機に放り込むのも面倒でそのままドラッグ・ストアに行く。暑い中二軒ハシゴしても欲しいものが見当たらず結局Amazonで注文する。西友で千円で適当に見繕ったサンダルはサイズが合わず靴擦れを起こした。最後に寄ったスーパーで買った卵は元々カノと揃いで買ったハンドバッグの中で爆発してわたしの財布及びそれらに付随するすべてのカード類を濡らした。天気予報を見ずに干した洗濯物は昨晩の雨でぐっしょりと濡れていて、干していたウインドブレーカーは風で煽られ下に落ちたのだろう、心優しい誰かの手によってアパート下の手すりに掛けられていた。踏んだり蹴ったりラジバンダリの人生にそれでも祝福があるのだとしたら『花束みたいな恋をした』のラスト・シーンみたいな一縷の希望であってほしい、と私の銃弾を浴びた後輩と話をした。私たちはあのエンドを自らの人生に待ち望んでいる。わたしの人生を一通り聞いた後輩はそれでもそこからドラマを抽出してくれ、言った。「それってもう花束なんじゃないか?」2024.6.4

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