新しい街に越してきて三週間になる。思い出すのはいつも前まで住んでいた街、及び今まで暮らしてきた街、そしてそれらに付随する幾つもの友人や恋人の顔ぶれだった。前の家は上野や鶯谷が近くて、だから夏の暑い日には日傘を差して時々散歩した。深夜に終電を逃して池袋から家まで歩いたこともあった。あの街が嫌になって引越ししたはずなのに、今住んでいる街並みを見ているとどうも自分の居場所があそこにしかなかったような気がしてくる。引き払った部屋に行けばあの日々が戻ってくるような気がしている。でもこの理由のない焦燥も仕事が始まれば薄れていくとわかる。この寂しさは、自分が今立っている現在地の覚束なさと見慣れない街を重ねているだけだとわかっている。不安な気持ちは春の風に触れて優しくなった肌はやがて私の一部になる◆電車の中で小さな女の子がたまたま乗り合わせた男の子の赤ちゃんに向けて犬のおまわりさんと春の歌とお正月の歌をメドレーで歌っていた。女の子のお母さんと赤ちゃんのお母さんと私が拍手をすると、彼女は嬉しそうに笑った。あの列車のあの号車だけは彼女の歌声が響いていて、彼女だけのステージだった。近くに寄って来た時「お歌上手やね」と声を掛けると「こんにちは」とその子ははにかんだ◆新宿の喫茶店に入ろうとしたが人が多いのが見えて踵を返した。家系ラーメンを食べたら体調が悪くなってバスタ新宿のシートで少し休んだ。村上龍の小説を読み終えた。甲州街道は多くの車が行き交っていた。2024.4.4
酔い潰れたり面倒がって翌日になって昨日のことを書くことが多い
X: @kujuranosenaka