kukanbi
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じとっとしており静かな、今日みたいな雨の日の暗い夕方に、地面に近いところで漂う空気を掬い、見えないものを恐るおそるみようとする。

弟が初めて書き上げた小説を読み終えた。

3月に書き終えていて、読んでほしいと言われていたけれど、時間がないから、とかタイミングが、とかいうのを理由に、ずっと読めずにいた。

2年ほど前からひとり、ひたすらにもがき考え続け、出したひとつの形を、タイミングを理由に延ばし続けるのは、あまりにも失礼なことだと思い返して、休みだった今日、ようやく本腰を入れて読みはじめ、そして今読み終えた。

正直、弟の中にこんな言葉や、感覚や、表現や、視点が、存在しているということに(表現は自分が見聞きしたものの組み合わせだと思っているので)、戸惑ったけれど、立ち止まりながらも、少しずつ読み進める。

ここでは具体的な内容については触れないけど、少なくとも私にとって、自分ひとりでは決して出会えなかった、書店に並んでいたとしても手に取ることがなかっただろう小説だ。

これを、ほとんどいのちを燃やして書き上げた弟。世間の評価がどうであったとしても関係なく、言葉と向き合い続け、自分ひとりで完成させたということは、ほんとうにすごいことだと思う。

取り急ぎ

忘れないうちにこうやって文章を書いて残しています。

突然大学を休学すると言い始め、スポーツばかりしていたところを、ひたすらに本ばかり読むようになったと思ったら、突然小説家になりたいと言い出した。はじめは、その気持ちは長続きしないだろうと思っていたし、小説というより、評論や哲学のほうに明るい感じであったから、小説はちがうんじゃないか、書けないだろうと勝手に思っていた。けど、日を増すごとに弟の気持ちは強くなっていって、はじめは冗談半分だろう、と思っていた私も、これはただごとじゃないのだと、ゆっくり理解していった。どうやら毎日書店に通い詰め、1日に数冊以上、本を抱えて帰ることが日常になり、帰ったらいつもポストにも本が届いていた。そんな弟の挑戦の傍ら、わたしは静かに、特にそれを気に留めることなく生活を続けていた。

そうこうしているうちにいつの間にか時はすぎ、小説を書き終えて、新人賞に応募したと報告を受けた時には、気が付けば私も社会人になっていた。

ついに、ついにこの時が来たかと思った。

きっと弟の人生はここから動き出す。

これからも、もがきながらもこの世界にしっかりと根を伸ばしながら、生きててほしい。

心からのまなざしを込めて。

2024.4.21

@kukanbi
なんでもなくないこととともに