現場を支える人々への敬意

Kuropen
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公開:2025/3/12

昨日3月11日で、東日本大震災から14年を迎えた。

日本史上でも稀な広域災害は、東日本太平洋沿岸に立地していた多数の発電所を止め、鉄道・道路網を一時寸断し、石油コンビナートなどでの火災を引き起こし、結果複合的なエネルギー供給障害となって、いわゆる被災地以外でも社会を一時機能不全にした。

また、安否確認などの電話が多く発生したことによる輻輳、海底ケーブル関連設備の被災などによって通信障害も多く発生した。

当時大学生だった私が当時住んでいた会津若松の、現在は実家と呼ぶべき場所は、幸いにして電気や水道は無事であったが、通信障害には巻き込まれ数日インターネットが使えなくなったという話は、折に触れてSNSにしてきた。余震が続いた上に原子力発電所の動向も心配され、しかしインターネットは全く使えなかった当時を思えば放送の役割は維持されるべきで、さらに放送は装置産業であるから災害時に役割を果たさせるには平時から健全な維持が必要だ。

そんな中、かつてTwitterと呼ばれたSNS、Xに対するDDoS攻撃が話題になった。

東日本大震災をきっかけに防災における効用が認知され日本国内の一般ユーザーが増加したこのSNSは、しかしイーロン・マスクによる買収を経て、ここ最近はその信頼性に疑問符がつく。昨年の能登半島地震の際にはインプレゾンビと呼ばれる、インプレッション報酬狙いの海外アカウントによるスパムや誤情報の投稿が相次いだ上、APIの有料化や利用条件の厳格化などでこれまで利用してきた公共機関等にも利用に支障が出る事態が発生している。

現在まさにアメリカ合衆国の行政各部でも行われていることであるが、マスクは買収後のTwitterに対して苛烈な人員削減策を実行した。そしてアメリカ大統領選挙でのトランプの全面支援やその思想の宣伝、挙げ句の果てには他国でも極右勢力の支援に回ったことも相まって、企業や一般ユーザーが離反したXにかつての面影はなくなりつつある。そこにきてこのDDoS攻撃だ。災害の際の住民との接点をXと定めた戦略は再構築が必要だろう。

無論万年赤字体質では企業としての持続性はないが、当時は各国の政府機関や大企業も一般ユーザーとの接点としてこぞって利用してきたその場を維持してきた人々への敬意は感じられない。

Xだけの話ではない。

日本国内ではインフラの崩壊が相次いでいる。例えば路線バスをはじめとする公共交通は人員不足で機能不全になっている地域がある。現在二度目の編成分離事故が東北新幹線で発生し運休列車があるJR東日本も、折からみどりの窓口の閉鎖などで、人手不足に名を借りたコスト削減策だと批判されてきた。大企業が人手不足と無縁だと誰が決めたのか。

私の家族は東京電力の送配電部門(現:東京電力パワーグリッド)で勤務していた。このようなインフラを預かる人員は、東日本大震災のような大規模災害があれば出勤する必要がある。このため必然的に、家族含めて遠方への旅行などは制限された。高所などの危険な場所での作業もある。震災後に給与や福利厚生などが批判されたこともあったが、こういった事情に対するせめてもの情けだろう。人が離れないようにするにはそのモチベーションを保つのに相応の待遇がなければならないのは、ここ最近の新卒初任給や人手不足分野での給与の急激な上昇が示すとおりだ。

逆に、バブル崩壊後の「失われた30年」というのは、現場を支える人々への敬意を無視し、人件費をコストと切り捨て人員削減にいそしむ経営者などを英雄視したことによって発生したのではないだろうか。今、そのツケを払うときがきている。

@kuropen
一人旅とガジェットが好きなWebエンジニア。 SNSへのリンクはこちらから: kuropen.org