今日は友人と遊ぶ予定だったが、昨日延期の連絡が入った。ちょうど母親が出かけたがっていたため、父親も一緒に長崎県の平戸の方に行くことにした。出掛ける前、母親がまた「お父さんに優しくしてあげて。そっちの言い分も分かるけど、お父さんも反省しているのよ」と言ってきた。とはいっても私には直接謝ってきていないし、何より無視されたり声を荒らげられたりして傷ついたと伝えると「そう?」と返された。体の血が一瞬で顔に集まった感じがした。
行きは父親が運転した。「今日の運転は何点でしょうか」と聞いてくるが、最早見ていなかった。母親が「45点」と答えた。
私だってショックを受けているのに、なぜそう優しさを強要されるのだろうと車窓からずっと曇り空を見つめていた。でも、ちょうど昨日AZさんがライブ配信で「なぜ私がここまで…という状況あるかもしれませんね」と言っていたのを思い出した。和平まではいかなくとも、ある程度折れることはできるかもしれない。と思ったのも束の間、前に入ろうとしている車に対してスピードを上げて入れないようにしたり、無茶苦茶な車線変更をして路線バスの進路を邪魔した上、母親に咎められてもまず言い訳が出たり、スーパーで遠くにいても聞こえるほどのくしゃみを連発したり、日帰り温泉を利用したホテルで宿泊者用の浴衣を借りようとしたりと、今日一日でも目に余る行動が多すぎて、やはりあまり深くは関わらないと再度心に誓った。
ただ、車の中で母親と父親が昭和歌謡を聴きながら思い出を語り合ったり、楽しそうに歌ったりしている姿がすこし羨ましく見えた。いつでも味方になってくれる存在とはいえ、その存在と対立してしまったら私は孤立するだろう。
温泉の売店で、鬼洋蝶という平戸の民芸品を見つけた。本来は凧なのだが、土人形の形をしたものもあった。伝統工芸としては凧を買うのが正解かもしれないが、どうしても土人形の方に惹かれたためそちらを買った。鬼退治がモチーフで、悪霊退散、魔除け開運の民芸品として愛されてきたらしい。箱を持つ手にぐっと力が入った。ロビーに戻ると、ソファから後頭部だけ出した父が、何度も何度も髪の毛を櫛で撫で付けるのが見えた。
明日は乙女座の満月。温泉から上がり外に出ると、まんまるな月が薄い雲の奥でぼんやり光を放っていた。