2月18日(日)快晴|天命を待つには人事を尽くす必要があることと、映像作品の持つ暴力性について

日の光を目一杯浴びながら久留米へ向かう。途中、友人と合流しMINOU BOOKSさんへ。石井さんは不在だったため、谷田さんにzineを託す。

ちょうど一昨日からナナロク社さんの「詩と造本」展が始まったところだった。本の仕様を詳細に解説してあって、思わず読み耽る。初めて就職したのが印刷会社の営業で少しは製本の知識があることもあり、このこだわりようでなぜこの価格が実現できるのか不思議でならなかった。展示されている本の中から2冊が気になり購入しようと思ったが、取り寄せ済みの本も合わせると会計が優に5,000円を超えることになる。無職なのにこんなにはしゃいでいいのかと思い、友人に「この本、箔押しがしてあったりUVニスが引いてあったり、帯付きで特色も使っているとかなのに1,500円とかなの。手元に置いておきたいけど、でも無職だしこんなに買っていいものか…」と打ち明けてみた。友人は、「えっそんなの実質無料じゃん! お金の心配はしなくて大丈夫ってこないだ行ったコーヒー屋さんの人も言っていたし、それにこれまで頑張ってきたんだからいいよ、買っちゃえ」と言ってくれて、その声に後押しされ購入を決めた。

そのままお茶しようと思ったが、席がいっぱいだったためテイクアウトして近くの公園に行った。友人が、最近自分から行動を起こしたことで状況が変わったということを話してくれた。私も最近職業安定所で食い下がったことで状況を打開して、自分から動くことの大切さを改めて知ったところだったから、奇遇だった。人事を尽くすからこそ天命が待てるのであって、行動をしないことには救われるものも救われない。

お茶した後、『ボーは恐れている』を観に映画館へ。私にとって初めてのアリ・アスター作品で、見てしまったらもう記憶は消せないという恐怖と、期待、不安、好奇心といろいろな感情が入り乱れる中、映画が始まった。観始めてすぐの感想は「悪趣味」だった。でも、これぞ映像作品という感じで、美術館で展示されている作品を鑑賞しているかのようだった。映像が、物語を進めるという役割ではなく味わうためにある感じがして、余白もたっぷりありとても良かった。ただ、映画自体は約3時間ずっと悪夢を見ていたような気分だった。一緒に行った友人はアリ・アスター好きだけど、それでも観終えてすぐは「これはちょっと…」と言っていたほどだった。映画館を出てからもしばらくは悪夢の中にいるようで、目に映る全てが不気味だった。軽快な音楽すら恐怖に感じた。一刻も早く夢から覚めたくて、ゲームセンターに行って可愛いぬいぐるみなどをひたすら眺めてみたものの、全然目に入ってこなかった。場所をサイゼリヤに移し、とりあえず食欲を満たした。最後にイタリアンプリンを食べたら脳にじわりと甘さが広がっていって、ようやく溜め込んだ毒素が浄化されたような気がした。約3時間、ずっと「これは何を観せられているんだ」という気持ちのまま終わった映画だった。

小説は自分の想像の世界の域を出ないから正解がなくて余白があるけど、映像は暴力的なほど完全な意味を持って押し寄せてくる。大好きなアーティストの金サジさんも、以前トークイベントで同じような話をしていた。特に映像は、一度見てしまったら見る前の自分には戻れないという覚悟が必要になる。だからアリ・アスターは避けてきたけど、『ミッドサマー』は今回の作品よりストーリーもあって全然違うみたいだから、観てみようかなと思う。

@kusundatofu
いろんなところではみ出しながら生きています。郷土玩具、ラジオ、無駄なものが好き。