楽しみにしていた浮さんのライブの日。移転後初めて行くLUMO BOOKSは、高級住宅街の小高い丘の上にあった。Googleマップを見ながら「絶対にここじゃないやろ」という道を歩き、案の定それらしき目的地は見上げた先にあった。道に沿って歩くとどんどん離れていく。そんな中、森に続く脇道の手前にぽつんとおしゃれな看板が現れた。ただ、LUMO BOOKSとは書いていない。不審に思いながら眺めていると、後ろを歩いていた人が「LUMOだったらこっちですよ」と教えてくれた。こわばっていた肩がすとんと落ち、急な坂道を登るとそこにLUMO BOOKSがあった。
受付で参加費を払う際に、ピン札を差し出すと「えっ、ピン札ですか。すごい…運気が上がりそう」と言われ、毎月自分のためにやっているピン札ルーティーンだけど、こうして誰かに喜んでもらえるとうれしいものだと思った。
ライブ会場は小上がりになっている畳張りの部屋だった。畳に座り縁側のほうに目をやると、どんどん空の青と葉っぱの緑が濃くなっていく。空間に身を任せたまま、ただそれを眺めていた。
縁側を開放したままライブが始まった。最初は白と枝さんだった。途中、一匹のカナブン飛び込んできて、一人の参加者の頭にぶつかったのちにその膝下付近に落ちた。仰向けのままずっと手足をもぞもぞと動かしている。歌っている人は目を向けることなく歌い続けている。ぶつかられた本人も動く気配がない。じっとカナブンを見つめ、ここは私が、と思ったとき、ぶつかられた人がカバンからなにかの告知らしきポストカードを取り出し、カナブンの背中に差し入れた。じりじりとすべらせ、カナブンが真ん中の位置に収まった。そのまま四隅を淡々と追っていく。そうして菱形になったポストカードを隣にいた人に見せて、笑っていた。何事もなかったかのように演奏が終わった。
開放的な空間で聴く浮さんの歌声と演奏は格別だった。普段は歌詞の内容よりもメロディが入ってきやすいほうだが、メロディと一緒に言葉もすっと入ってくる感覚だった。自然と音楽が調和した時間だった。
帰り道は通っていない方の道にしてみたが、あまりの急さとうねり具合に笑いが出た。中心部からそんなに離れていないのに、小旅行に来た気分になった。今度は晴れた日の日中にゆっくり来ようと思う。