20241228

kyri
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公開:2024/12/28

 私が冬を愛する理由は百個ほどあるのだが、その一から百までが全て"雪"だ。それだけ私の雪への想いはひたむきで純粋だ。なぜ雪が好きなのかというと、白いから、清らかだから、静かだから、溶けるから、消えるから。

 愛し合うふたりがつき合った日数を数えるように、私は雪に出会った日を数える。初雪、二回目、三回目……十回まで数えた年は、なんとも言えないほど美しかった。

ハン・ジョンウォン『詩と散策』p.8

小中高ずっと一緒だった唯一の友達(彼女はもう結婚して子供が二人いる)家族とファミレスでご飯を食べた。子供たち二人と会うのは1年半ぶり。最後に会った時は確かまだ2歳と0歳で、言葉もおぼつかなかったけれど今日会った彼らは立派にたくさんしゃべっていた。でも人見知りが激しい子で結局一言も喋ってもらえなかったのがちょっと残念。私も左利きなのだけど、彼女もその夫さんもそして長女の子もみんな左利きで、右利きは唯一弟くんだけというのが印象的だった。夫さんとは今日初めて会ったのだけど、物静かで控えめで優しくて、そうかあこんな人が彼女と結婚したのだな、彼女はいい人と結婚できて本当に良かったなと心から思った。この日記でも何度も書いているけど私は今となっては友達も少なく、そして彼女のことは前述の通り小中高ずっと一緒だった唯一の子なので、彼女が私のことをどう思っているかは知らないけれど私は彼女のことをすごく大切に思っている。毎年誕生日には連絡するし。できればこれからも彼女との関係は切らずにいたい。子供たちもどんどん大きくなるだろう、そんな彼らの成長に年一くらいでお邪魔する親戚の人みたいなポジションになりたい。まあ、会ってもらえるのも彼らが小さいうちだけだと思うけど。食べ終えてのんびりおしゃべりをしていると雪が降ってきて、長女の子が嬉しそうに「ゆき!」と指をさしていた。東京にいると雪は降らないもんね。私はもう雪にそこまで特別の思いはないけれど、そんな、特別な思いがなくなってしまったのだということ自体に気づいた。もう忘れてしまったけど、私にとってもかつて雪は嬉しいものだったかもしれない。

「今でもピアノとお絵描きをやるの?」と彼女から聞かれてはっとした。私はかつてピアノとお絵描きがすごく上手な子供だった。彼女の中にいる私もまたずっとその印象のまま変わっていなかったのだろう。だけど残念なことに、今となっては私はピアノもお絵描きもやめてしまった。それが少し申し訳ないなと思う。私はもしかしたらこのピアノとお絵描きの才能で人から羨ましがられていたかもしれず、だけどその、人が羨む才能を自分からぽいと手放してしまったのだった。今では私はピアノを弾く指もおぼつかないし、お絵描きに至ってはもっと心もとない。米津玄師がかつて「自分のことを絵を描く人間だと認識しなくなってから途端に絵が下手になった」と言っていたけど全くその通りで、私はいつしか「絵を描く自分」であることをやめた。

でも勇気を出して「文章だけは今でも続けているよ」と言ってみたら、彼女はすぐに「小説?」と聞いてきてこれにもまたびっくりした。そうだよと答えるのが気恥ずかしかった。子供を持って暮らしている彼女にしてみれば今も結婚せず子供も持たず好きなことばかりをして暮らしている私の趣味ごとなんて、いい年して何やってるんだと思われてもしょうがないと思っていた。だけどまだ応募してみようと思ってると言うと彼女は素直に「すごいね」と言った。なんだか面映かった。小説や脚本などの創作は、私にとっては表立って人に言うような趣味ではなかった。だけど学生時代をずっと一緒にいたら、私がずっと創作を好きだったこともわかっていたし、そしてそれを今でも続けていることも、特に驚くべきことではないのだろう。だけどそれでも、なんだか面映かった。

かつて私たちの高校時代にいたある先生が当時35歳だったよねという話になって、私たちももうその歳になろうとしてるんだねと彼女が言う。だけど、いざ、来年35歳になろうとすることを考えてみても、35歳って、当時のあの先生って、まだまだ全然若かったんだなと思う。全部がこれからだったんだなって思う。それは私たちにとっても同じなはずで、彼女はしきりに「私たちももういい歳だよ」と言うけれど、確かにそうなのかもしれないけど、私は全然悲観していなかった。まだ若い、心からそう思う。まだ人生は、全然長い。それは私が今気楽で自由な立場でいるから、だけじゃなくて、彼女にとってもそうなんだ。だから、まだ、若いままでいようよ。

ファミレスを出ると大雪になっていた。長女のあの子にはさぞかし嬉しい光景だっただろう。また会おうねと言って別れた。雪はしばらく降り続いて、あっという間に少し積もった。これが私の町だった。10代をここで過ごした。彼女は東京で、私はこの町で、まだ若いままで、生きていかなくちゃならない。そして子供たちもまた、成長していかなくちゃならない。それは希望だった。雪深くなっていく世界の中で、あの子供たちがこれからもどんどん大きくなるであろうことが、まるで晴れた朝に、雪に陽光が反射する青い光を今このとき見たかのように、とても眩しく感じられたのだった。

@kyri
週末日記