20240506

kyri
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今日はなぜだか全然眠れなくて、明け方になってからようやくうとうとし始めて、けれど映画を観に行かなくてはならなかったので渋々起きた。今月から寝るときの薬を一錠減らしたのが良くなかったのかも。せめてジュンブラまでは薬をいじらない方がよかったな。その上、もしかすると風邪をひいたかもしれない。喉が痛い……この時期に風邪をひいたことがあまりなくて分からないんだけど、でも先週はすごく寒かったり、そうかと思えば今週とても暑かったり、体調を崩してもやむなしな感じはする。


前述の通り寝不足と体調不良だったけれど眠気覚ましの薬をぶち込んでどうにか映画を観る。今日観たのは『ピアノ・レッスン』4Kリマスター版。

しかしこれが、音楽が素晴らしいことを除けば1ミリも共感できるところのなかった映画でまじか〜となってしまった。なぜなんだエイダ。私だったらそんな気持ち悪い取引を持ちかけてくる男と恋仲になどなったりしない。私がハーヴェイ・カイテルにそこまで関心がないだけなのか? とにかく、ピアノを弾いてるときに腕を触ってきたり足元を覗き込もうとしたり服を脱げと言ってきたり、気持ち悪すぎるだろうハーヴェイ・カイテル! でも、思うに恋愛って、こういう取引自体をどうこう言う前に、どこかで「この人いいな〜」と思っているからこそ進んでいくもので、取引も後付けでしかないのかもしれない。取引によって惹かれたのではなくて、最初から「この人いいな〜」ありきで進んでいった関係なのかもしれない。いや、映画としては、あの取引によって惹かれたように作ったのだろうけれども……

映画のフライヤーを見てみると「レッスンと引き換えに手に入れたのは、世界にひとりだけの「私」。」「自分らしくありのままに生きようとするヒロイン像の原点が、30年の時を超えて4Kの美しい映像で蘇る」とあるけれど、別にエイダはピアノのレッスンの前から世界にひとりだけの女性だったし、6歳で話すことをやめ、ピアノを声の代わりとした時点で彼女は世界に抵抗し、自我を突き詰めているような気がする。別にベインズとのピアノのレッスンが彼女を変えたわけでもない気がするんだけどな……でも変わったのか、現に彼女は彼と恋に落ちたのだから。でもその、恋に落ちた感情の機微が分からないよエイダ! どこまでも私の主観でものを言うけれど、そんな、そんな気持ち悪い取引を持ちかけるような男の何がよかったんだ!(何度でも言う)海辺にピアノを捨て置いた夫のスチュワートよりはよかったという話なんだろうか。でもそれにしたってさあ……

そう、ピアノ。ピアノといえばこの映画では海辺に打ち捨てられて潮風に吹きさらされ海水に濡れ、そしてエイダによって鍵盤を一つ抜き取られ、最後には海に沈められてしまうのだけど、シンプルにピアノへの冒涜では? と思わないではいられなかった。海辺に置かれたピアノというのは確かに絵面はめちゃくちゃ良いが、どうしたって、ピアノをそんなふうに扱われると「美しい」という感情より先に「やめてくれ」が先に来る。私がかつてピアノを弾く人間だったからなのかな? そして、この海辺に置かれたピアノという構図を見るとき、小学生のときに読んだ『海からのメッセージ』という本を思い出す。この本はアザラシの保護活動に取り組むピアニストの活動記録で、確かその保護活動のプロモーションとしてピアノを海に置いて演奏するという企画があり、最終的にそれは実施されたのだけど、だけどそのピアニストはピアニストであるからこそ、海にピアノを置くなんてもってのほかだと考えていて、その感情が綴られた文章をとてもよく覚えているのだった。だから、私もピアノを海辺に置くことに抵抗があるのは、この本に影響を受けたからなのかもしれない。でも、こんなところに気を取られてしまうのは映画にとってはすごく「そこじゃねえよ」なのかもしれない……もっと単純に絵面の美しさを見ろよとか、そういうことなのかもしれない。いや、確かに美しいんです。白波が立ち、灰色に荒れる海に捨て置かれるピアノは幻想的で、エイダの心象風景そのままのようで、映像としては、本当に美しい。美しいのだけど、でもねえ……という話です。

文句ばっかり書いてしまったけれど、マイケル・ナイマンによる音楽は本当に素晴らしかった。特にやっぱり、劇中でエイダが弾く『楽しみを希う心』は不穏で、哀しく、それでいてひたむきで、美しい。今もこの『楽しみを希う心』をヘビロテしながらこの日記を書いているわけなんだけど。そしてエイダが弾くということはホリー・ハンターが弾くということであって、エンドロールで「PIANO SOLO HOLLY HUNTER」というクレジットがされているだけあってホリー・ハンター、めちゃくちゃピアノが上手い。このピアノをしてホリー・ハンターはエイダに到達することができたのだと思うと楽器の持つ力みたいなものをあらためて見せつけられるよう。この音楽を聴くことができたから、まあ観てよかったかな〜と思ったのでした。


そうしてGWは終わってしまうのでした。結局読書も創作も進まなかったし、何してたんだろう? パーティーやって寝てました。希望的観測ですが、今月中に短編を一つ書きたい……あと免許の更新……

@kyri
日々と二次創作の間で