※『標本箱』『完全なる首長竜の日』『黄金蝶を追って』のネタバレがあります。
小さく美しいものが出てくる小説がとても好き。博物的で、唯一無二の特別感があるとよい。オブジェクト感と呼んでいる。
今まで読んだ中で、オブジェクト感があって好きな小説は冒頭の注意書きの3つだ。一つずつ紹介する。
1 『標本箱』皆川博子(『少女外道』に収録)
主人公の倫(みち)は故郷に帰る途中、標本箱のことを思い出していた。ぼんやりとした回想の中、忘れていた記憶がよみがえっていく。水晶、石英、瑪瑙……。最後の升に収められていたのは、小さく透明な骨。
生まれなかった命が暗示されるため、手放しで誰にでもおすすめするという訳ではないのだが、このいつの間にか非現実になっているようなぼんやりした感じと小さく透明な骨の存在感、美しさが私はとても好きで、一番好きな本にいつも挙げている。
透明な骨を倫が思い出すのは短編の最後2行なのだが、よく読むと中盤にもさりげなく「透明な骨のように」というフレーズが出てくる。
2 『完全なる首長竜の日』乾緑郎
漫画家の敦美は、自殺未遂によって昏睡状態となってしまった弟と「センシング」という技術を介して意識を共有し接触する。そのうちに現実と夢の区別が曖昧になっていく。
私が好きなのは砂浜で金属探知機を使って宝探しをする敦美が、小さい真鍮のプレシオサウルスを発見するシーン。手に乗る大きさで、ずっしりと重い。敦美はそれを裏返したり波打ち際に置いてみたりして見ているうちにうれしくなってくる。読んでいるこちらまでワクワクしてしまう。
3 『黄金蝶を追って』相川英輔(同名の短編集に収録)
小学校で一番絵がうまかった尾中は、中学に進学して自分以上の絵を描く佐々木に出会う。佐々木を師と仰ぎ距離を縮めた尾中は、ある日その画力の秘密を教えてもらう。それは、ビルマで買ったという魔法の鉛筆だった。
中学校の壁に中学生が絵を描くことを『所詮子供のお遊び』と馬鹿にしていた主人公が、誰か(佐々木)が描いた黄金の蝶を見て立ち止まってしまうシーン。主人公は後にデザインの仕事に就くのだが、黄金の蝶は越えられないと感じている。
以上3つが、オブジェクト感があって私が好きな小説でした。
他に小さく美しいものが出てくる小説を知っていたら、ここのレターでもブルースカイでもいいのでぜひ教えてください。
