演技が好き。まず日常とのギャップがあるのがいい。学生生活だとなぜか特にいいのだが、日常で何気ない他愛ない話をしている相手が、学祭などでまじめにセリフを喋ったり、立ち回ったりするのがいい。現代日本のはずが、シェイクスピアや宮沢賢治の世界観に入っていて、漫画でいうハロウィン回みたいな感じがある。ここでハロウィンなのは、非日常感と「好きなキャラが包帯ぐるぐるや魔女など異形になる感じ・コスプレ感」がお正月やクリスマスではだめだから。コスプレ感というのも大事で、あまりなり切らずチープな演技がとてもいい。例えば、「グサッ! うっ、やられた! ……な~んてね」みたいな単発の演技でも好きな人やキャラがやっていると萌える。
『推しの子』を観ていたときには、アクアの演技シーンがよかった。ライトや間、水たまりまで利用して、ナイフを舐めながら襲ってくる変質者を演じていたのだが、瞬間目を見開いてナイフを振りかざす一方で、主人公の役に反撃されながら心の中で「演技、やればできるじゃん」のような独白をしていて、その「演技に対して冷めている感じ」が、わかっているという印象。昔読んだ本でも、「悲しい演技をしながら裏で舌を出している方が本当の名優。自分で自分の演技に酔っていてはうまい演技とは言えない」と書いてあった(『翻訳者の仕事部屋』深町眞理子)。もちろん目を見開いてイカれた感じもよかったが、それは演技の話とは外れるので割愛する。
演技の中で特に好きな種類として、死がある。今ざっと『ハムレット』を読んでも、刺されて「ああ!(崩れ倒れる)」とか、想像するだけでもいい(シェイクスピアの演劇を生で観てみたい……)。演劇だと特に死は簡単な美しいものになっていて、映画の演技などとは違う形式美、様式美という感じだ。それがかえって好き。映画だと痙攣するとか、白目を剥く、鼻水や涙を流す、血でぐちゃぐちゃになる、苦痛で泣きわめくなどがあって、リアルに寄ってしまうので、リアルはリアルでもいいのだが私の求めている美しさはない。
死ぬまでいかなくても、負傷や精神的ダメージなど、私のカテゴリで「ダメージ萌え」に入るともれなく好きになる。
他にはオタク界隈でもよく言われるように、少女が演じる少年/王子様というのも演技の好きなポイントである。『累』の1巻では、演劇部の先輩(本番では累)が『銀河鉄道の夜』のジョバンニを演じるシーンがあって、いっとう好きだ。『累』にはもう一つ好きなポイントがあって、他の漫画でも同じ表現なのかもしれないが、演技のセリフは吹き出しの中に鍵括弧が入っている。これが「このキャラは演技でこのセリフを言っている」ということを際立たせていて、演技フェチとしてはたまらない。
最後に、カーテンコール。死んだ人も悪役も、みんな出てきて手をつないでお辞儀をしたり、笑顔で手を振ったりする。こんなに人類が愛おしいことがあるだろうかと思う。
人生もカーテンコールがあるでしょう嫌いな人もみんな笑って