大富豪の芸術的事業

lantana
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公開:2024/8/4

 大富豪の芸術的事業が好き。今年のゴールデンウィークに滋賀県のMIHOミュージアムに行ってそれに気づいた。

 ここからMIHOミュージアムの思い出になる。

 MIHOミュージアムはバスで山の中を1時間行き、さすがに飽きてきたといったところでやっと着く、辺鄙な場所にあった。古代ガラスの展示をしていたのと、行ったのがゴールデンウィークだったので駅からのバスにはかなり人が乗っていた。みんなやれやれという感じで降り、最初にある建物でチケットを買う。その後別の建物までしばらく歩くのだが、私はここでもうおののいていた。

 すごい山の中に、トンネルや橋があって、そこを通って美術館に行くのだ。美術館のために作られたトンネルと橋。なんて贅沢なんだ。この時点で私の頭からはポーの小説「アルンハイムの地所」の連想が離れなくなってしまった。他の人は「トンネルだー! すごいね」とか言って写真を撮ったりしているが、よく考えるとこんなことをする人はちょっと正気ではないのでは? という感じがして、素直にはしゃげなかった。

 展示を見てまた驚いた。富豪の私が集めたのかと思うほどセンスが好み。遊色の古代ガラス、エジプトの像やリュトン。ここがあれば私は何も心配せず生きていていいなと思った。形あるものはいつか消失するけれど、ずっと後になってこの美術館が消失することがあるなら、コレクションは散逸しないでほしい、いっそ焼失してほしいとすら思った(美しいものの滅亡はせめて燃えることによってほしいという私の美学による)。

 あまり美しかったのと、そのとてつもない財力、センス、方向性におそれをなしたので、早々にバスに乗って帰ってしまった。また絶対に行きたい。

 MIHOミュージアムの話が長くなったが、そのとき私の一つの好みが分かったのだった。ポーの小説「アルンハイムの地所」も、それを基にした乱歩の「パノラマ島奇譚」も、谷崎潤一郎の「金色の死」も、ホワイトの小説「鼻面」(『ルクンドオ』に収録)も、奇矯な富豪が金にものを言わせて独自のセンスと美学を追求する事業が出てくる。

 「アルンハイムの地所」は遠い血縁者の死亡により莫大な財産を相続した人が、独自の美学により「人工の自然」を施した土地を作る話。これに影響を受けたらしい同名のマグリットの絵もあり、とてもいい。

 「金色の死」や「パノラマ島奇譚」は明らかに「アルンハイムの地所」を意識して書かれている。「金色…」が「パノラマ…」に影響を与えたともされている。人工の自然も出てくるが、肉体的な方向にも向かっている。

 「鼻面」はこれらの系譜では全くなく、夢をテーマにする米国作家の作品だが、富豪の芸術的センスが描かれる点で同じものを感じる。豪邸に忍び込んだ強盗たちが、そのコレクションや制作物のあまりの芸術性に驚くというような内容。強盗に入ったはずの者が、「神話的な」美しさを目にして何も言えなくなってしまう様には、なんともいえないおかしさを感じるとともに、人間への希望のようなものもあるような気がする。

 他にもそういう小説などあったら教えてほしい。

 最近、美術館巡りが趣味になった。まだたくさん行ったという訳ではないが、公立と私立では明らかに「美」へのモチベーションというか、方向性が異なるような気がしている。もっとたくさん私立美術館に行きたい。

 

@lantana
ランタナ/木苺/出フェイ 日記みたいに日々のことを書きたい