その日は突然やってきた、あの人のいない日が。彼のいない空間が私を押し潰す。どうしようもない不在感を持て余し、独り、また独りになったのだと思い知らされる。といっても、恋人になったわけでもない、友人ですらなかった。地球上のどこかで生息していることは分かっていても、それが私の近くではない、それだけで息が止まりそうになる。これから彼は恋をし、妻を娶り、子を作り家庭を設けると考えただけで、涙がどっと溢れる。なぜ、私じゃないんだ。分かっていても辛い。桜の花吹雪が空に舞って、一陣の風が吹き抜ける。みな幸せそうに写真を撮りながら平和を味わっている。私だけだ、この中で私だけ、言い表しようのない不幸に見舞われているのだ。例え貧乏だって、健康を害していたって、思うような成功を得られなくたって、奴隷のように生きたって構わない、私は彼のものになりたかった。そして、彼を私のものにしたかった。無意識の過去形がまた私を傷つける。そうか、もう過去になってしまったのか。あんなに楽しく幸せに過ごせた日から、まだちょうど1週間しか経っていないというのに、この1週間で、私はまた一段と老いてしまった。もう叶わないことがある、昔からそうだったけれど、現在は余計にそうなのだと識ってしまった。この事実に比べれば、ほかのことなんてみんな些細なことだ。全てがもうどうでもよい、仕事も家族もお金も。死が身近にある、私はもうこの恋を全うできない、それは即ち後死にゆくだけの肉体なのだ。
なぜここまで激してしまったのか、わたしにも全く分からない。しかし彼は本当にわたしの大事な美しい夢だった。