昔から独居していらした、ご近所のお婆さん。ワクチンが出来る前にCOVIDに罹患されて以来寝たきりになり、毎日別居のご家族の方や福祉の方がお家に出入りしていたのだけど、ついに半年ほど前、施設か病院かに入所されてしまった。茶道、華道、書道のお教室を開き、いつもシャン!として、お家もお庭も常に季節季節による佇まいを整えてらっしゃる方だった。今、誰もいないお婆さんのお家は閑散としていて、草木深し、という感じになっている。
一昨日の朝。仕事場に行く途中、そのお婆さんを見た。
大きな如雨露を持って、前庭のつつじにお水を遣っていた。お元気になられたのか、良かったと思い、声をかけようとした瞬間「いや、そんなことはない!」と思った。年末調整の時にチラリを拝見したお婆さんは、ガリガリに痩せ細り、意識も朦朧となさっていて、とても元気に復活なさるようには見えなかったのだ。
一瞬オバケかと思ったのだけど、よそ見をして改めて見直しても、お婆さんはつつじに鉢植えに植木に楽しそうに水を遣ってらっしゃる。この寒さで、時々霙が降ったりしてるのに?この寒さで、裸足にクロックスで?しかしご不幸があったなどの報は入ってきていない。声をかけてみようか。おはようございます、それだけでいいから。
逡巡したものの、結局時間もあまり無かったので通り過ぎてしまった。
お昼前に帰宅する途中、もう一度お婆さんのお家の前を通った。朝水をたくさんもらったはずの植物たちの土はカラカラに乾いていた。
それからずっとこのことを「なんだったんだろう?」と考えていて、ふとあれは誰か(何か)の思い出、残像みたいなものだったのではないかと思い至り、何かがストンと腑に落ちた。あの時、お婆さんが懐かしく庭の水遣りを思い出していたのかもしれない。お庭が植物たちがお婆さんを思い出していたのかもしれない。今の私はそういうのを見えるチャンネルになってるんだろう。チャンネルが変われば見えなくなってしまうのだ。
そして、そうではなく、もし誰か(何か)が私を選んでそういったものをわざわざ見せたのだとしたら、それはそれでとても光栄なことだとも思う。
実際あれは、なんだったんだろう?