お京
·

きっかけはSNSで見た「鴉に声掛けを続けると、鴉がこのゴミ捨て場はこいつの縄張りだと認識して荒らさなくなる」という書き込みだった。当時、鴉がゴミを荒らしてホトホト困っていたので、ものは試しとやってみた。

「おはよー」「今日も暑くなりそうだねー」なんて言っているうちに、一羽と目が合うようになった。目が合うと「おはよう」と特別にその子に言ったりして。そのうち、ゴミを出しに行くと、電柱にとまっていたその子が必ず下りてくるようになった。

私が右に歩けば鴉が左に歩く。私が左に歩けば鴉が右に歩く。鴉が右に動くようにみせかけて~~~~実は左!とフェイントをかましてきて、私が大笑いをした時、「あ、仲良くなった」と確信に至る空気ができた。

何かその子にしてあげたいと思うものの餌付けになってはいけないと思い、歯がゆい気がしだした頃、その子が私に物をくれるようになった。

誰かが齧って食べるのを止めた、雨水をしっかり含んだぐじゅぐじゅのトーストとか。菓子パンの空袋とか。イビツに伸びたワイヤーハンガーとか。もけもけになったビニール紐とか。スライスチーズのフィルムとか。ぺちゃんこの野菜生活の紙パックとか。

私が「わー、くれるの?ありがとー」と言うと、その子は小首をかしげて「・・・な?」とする。私も訳が解っていないけども「うん」とウナヅク。

その子はかなりの焼餅焼きで、他の鴉が来ると「あ゛あ゛ーーーーーっ!!」と威嚇して追い払ってしまう。そしてまた私に「・・・な?」とする。私も「うん」とうなづく。

そういう関係が続く間、我が家のゴミが荒らされることは一度もなかった。ご近所じゅうのゴミが荒らされる中、我が家のゴミ捨て場だけが綺麗であった。

やがて鴉が自分の子供であろう、一回り小さい鴉を連れてきて見せてくれ(「・・・な?」「うん」)鴉の体が少し小さくなり、青黒かった体の色がなんとなく淡くなって、目の色が灰色になってきて・・・鴉はだんだん来なくなり、まったく来なくなった。

立派になった子鴉も、最初のうちは親の気持ちを引き継いでか、しばらく来ていたけれど、そのうち来なくなった。今では我が家のゴミも、ご近所同様荒らされている。

最近、隣のマンションにゴミ出しマナーを知らない人が引っ越してきた。ゴミの日じゃないのにゴミを出す。ネットでくるんだり、ネットの中に入れることなく、畳まれたネットの上にポン!とゴミ袋を置いて行く。しかもゴミ袋は口を縛っていない。鴉は大喜びだ。隣のマンションの敷地も、道路も、我が家の前庭やガレージにもそのゴミをまき散らして食べるものを探す。使用済みの衛生用品やコンビニ弁当のカラ、残したコンビニ弁当の野菜、お漬物。まるめたレシート。みかんの皮。使った割り箸と割り箸の袋。ぺちゃんこになった歯みがきチューブ。

散らかされたゴミを「MMT!マじ、ムか、ツくだよ!」なんてぷりぷりしながら掃除していて、ふとあの鴉を思い出す。

あの鴉は元気かなあ。