ガソリンを入れようと、軽トラのおじいちゃんが給油中のレーンに車をつけた。ここいらで一番安いガソリン価格がゆえにいつも盛況で、特に休日は並ぶ羽目になる。まあ仕方がないと思いつつ待っていると、おじいちゃん、マイペースこの上ない。取り出した1,000円札をまじまじと見つめてみたり、車の給油口のキャップを長らくくるくるしていたり。後ろに並ぶ車のことなど気にもかけていないようだ。
ところで、わたしは常日頃運転しているときにはできるだけイライラしないよう心がけている。
急に割り込みされたり、前を走る車が自転車と同じくらいの速度だったりしたとき、「今この車に遭遇したおかげで事故に遭わずにすんだ」と時空を飛び越えて思い込み、急いる気持ちを抑え込むおかげでアクセルをベタ踏みせずに済んでいる。
そしておじいちゃんだが、ガソリンは入れ終わったものの、特段急ぐ様子は見られず、レシートを受け取ったのちにレシート出口を再度確かめるなどしている。わたしがこうやって待っている間にも隣のレーンは2台進んだ。その隣は3台だ。イライラは……して……いない……………。
これはもうあれだ。将来おばあちゃんになったわたしが、こうやって若い方に待ってもらうであろう時間を先取りしているのだ。あ、ちょっと前にバズった動画であったよね。コンビニでなかなか小銭が出せないおばあちゃんとラッパーのやつ。“叩くより称え合おう”だ。そうだ。今こそ称えるべきなのだ。えーっと、、おじいちゃん、この変化の早い時代に自分のペースを貫けるなんてすごいよ!! 強い信念!! 強い気持ち!! 強い愛!!!!!
…とかなんとか思っていたら、おじいちゃんは財布を腹巻きに丁重にしまい、去っていった。腹巻きに!? というつかみどころのない余韻を残して。