神経抜いた

licotta
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昨日、2回目の歯医者に行った。2日前は午後イチでとても混んでいたので午前イチ(診療開始の9時)で行こうとがんばろうとしたのにがんばれなかった。10時過ぎになったが思ったより混んでいなくて、すぐ呼ばれた。消毒しますね、と一瞬で終わった。「今回はこれだけですか…?」前回もこれだけで、全く改善されないから来たのに。「何度か消毒をして様子を見ます」はぁ、となった。帰宅して、まだ予約の取り消しをしていなかった16日待ちの歯医者の方に電話をし、キャンセルをした。

昼ごはんに冷凍チャーハンを温める。熱いのは痛い。かき込むように食べる。夜ごはんは夫手製の餡かけたまご丼。おいしい。なのに痛い。地獄だ。おいしさより痛みの方が増す。夫がつくってくれたものを味わえないなんて。地獄だ。また歯医者へ行っても、消毒です〜ちょんちょん、で終わったら?「何度か消毒」って何度??来週いっぱいかかるとして…

もう一方の歯医者をキャンセルしたことを激しく後悔した。こっちは再来週頭だ。16日待つ予定も残り10日だ。今の歯医者を適当なタイミングで切り上げ、そちらに切り替えるという手もあった。あと1週間どうしよう…地獄だ。夫の膝を借りてびゃんびゃん泣いた。実際そんな泣いていないけど、メンタルが崩れ落ちたのが分かった。いたみはつらみ。つらみはいたみ。次の日、つまり今日、勝負をつけようと決意した。土曜は混むだろうし、昼から自分の店を営業する予定だ。今度こそ午前イチで行かなければならない。

翌朝、つまり今朝。布団がぬくぬく心地よかった。ダメだ、今日はがんばるんだ!がんばる日なんだ!自分を奮い立たせる。夫が寝ている横で朝ごはんの準備を始めた。寒い。パンをかじる。痛い。この地獄は本当に早く終わらせなければならない。

9時過ぎに着いたがすでに満員で、まず1時間半待ちと言われた。が「消毒だけなら早く呼べますので、しばらくお待ちください」とのことで待った。本当にすぐ呼ばれる。衛生士さんにちょんちょんと消毒してもらった。「この消毒はあと何回やるんですか?」「痛みがなくなるまでです」「もうごはん食べるのがつらくて…」「全然よくなっていませんか?」「なってないです」「先生呼んできますね」

よっしゃぁ!と内心ガッツポーズをする。最初に見てもらった先生とは違う、年配の先生が来る。歯に風をかけられる。「これ痛くない?うーん、神経まできてたら我慢できない位なのになぁ」「さっき消毒してもらったときにかけた水みたいなのがすごい染みて…」「耐えられない?」水をかけられる。「ッッ…!!!」顔をそむける。多少大げさに反応してしまったが、消毒中はガマンしていた素の反応である。つまり、地獄。

「あまり神経は抜きたくないんだけどねぇ」仕方ないねぇ、と先生は言う。神経を抜くと歯が死ぬらしい。あと、寿命が縮むらしい。これはちょっと怖い話が、このまま痛みが続けば『私』がすぐにでも死んでしまう。それにいつだか覚えていないが、すでに1本神経を抜いていた。「反対側も同じ所を抜いてるね。こういう人多いんだよ。成長過程が同じだからかねぇ」よくしゃべる先生である。嫌いじゃない。

まずは表面麻酔から。唇と歯茎の間一面に何かを挟まれる。それが効いたら局部の麻酔。「チクっとするよ」「もう一回」「これは子どもも同じだからかねぇ」よく話しかけてくれて気が紛れる。と言いたいところだが、実際の感想は

今までの地獄と比べれば全然大したことない

だった。私は本来注射が大嫌いで、麻酔も例外ではないが、そんなのは本当に何ということもないくらい歯の痛みは地獄だった。

そんなわけで、けっこうガリガリ、ゴリゴリ、削った。神経を。ああ、私の一部が死んでいく。痛みのない治療のなか、諸行無常さを感じていた。うがいしてくださいねーと衛生士さんに起こされ、口の違和感のなさに気づく。今まで麻酔が効いていると、口の半分がデロンとなっていて水をこぼし、うがいが大変だったのにその症状が出ない。麻酔も進化しているのか。

10時過ぎにはおうちへ帰ることができた。お昼ギリギリまでかかる予定だったのに、時間ができてしまった。幸せな悩みだ。しかし気疲れなのか、こたつでスコスコ寝てしまった。布団ではないので、何度かまどろみつつ。

お昼はコンビニで買い、自分のお店で食べることにした。おにぎりとパンをひとつずつ。開店の準備を整え、ひと息つき、おそるおそるおにぎりにかじりつく。痛くない。当たり前の感覚だ。当たり前のことがこんなに幸せなのか。こぼれそうになる米を噛みしめていると、お客さんがやってきた。「いらっしゃいませ!」慌てておにぎりをカウンターに戻しマスクをつける。咄嗟のときにも口元を気にしなくていいマスク便利。

3時間の営業が終わり、おうちへ帰る。夫は私を一旦家に置くと、買い物へ出かけた。こたつに横になる。グダグダしているうちに「今日は焼肉よー」と夫が帰ってくる。

肉。うまい。おうちでする焼肉。贅沢。歯、痛くない。なんという幸せ。歯は死んでしまったが、もしかしたら寿命が縮んだかもしれないが、私は生き返った。むしろ生まれ変わった。なので寿命なんて関係ない。今の私は新品だ。そのくらい幸せだった。しかしいくら気を使っていても、またどこかにガタがおとずれるだろう。それでも、今はこの幸せを噛みしめたい。がんばってよかった。