いつもの喫茶店、いつものコーヒーカップ。ただ、いつもと大きく違っている。
席に着きながら「今日はブレンドにしよう」と思っていたのだけど、せっかくマスターがメニューを持ってきてくれたので開いた。仰天した。
『黄門コーヒー』
なんと、コーヒーのメニューが追加されていた。
しかも『黄』『門』が切り貼りされた文字だ。他は手書き。どこかのパッケージから切り取ったのだろうか。顔を上げ、マスターと目を合わせる。伝票を片手に席まで来てくれる。
「『黄門コーヒー』は何が入ってるんですか?」
「モカ・マタリ、○○、○○(忘れた)…濃いめのコーヒーになります」
とりあえず頼んでみることにした。なぜメニューの追加にこんなに驚いているのかというと、この喫茶店はお客さんの層はご老人がほとんど、マスターご夫婦もご高齢で、時間の流れがとても緩やかな場所だからだ。まさかのコーヒーメニュー追加という変化に驚いてしまった。なぜ黄門かというと、ココが水戸市だからだ。他の喫茶店にも同名のメニューがありそう。
運ばれてきたコーヒーは確かにしっかり濃く、ミルクを入れてもまだその濃さがはっきりしていた。自分には濃すぎるかなと思った。次第にナッツのような味が生まれてきた。
小川洋子『刺繍する少女』があと一編だったので読んでしまい、もう一冊持ってきた『シュガータイム』は本から一度も手を離さずすべて読み終えてしまった。小川洋子は長編の方が好きだ。独特の世界観が継続されるので没入できるからかもしれない。
お会計のとき、マスターが「少し濃かったでしょう」と言った。そうですねと答えつつ、次はまたブレンドか何か違うものを頼むだろうとぼんやり思った。
家を出たときも、帰りも肌寒かった。でもまだ上着は着ていない。午前中はずっと毛布をかぶっていたので果たして出かけられるかと思っていたが、昼食を食べたら寒くなくなった。家を出たのが13時半、喫茶店を出たのが15時過ぎ。日暮れが早いと、このくらいの時間に帰路につくのが理想だ。だんだん寂しい季節になっていく。