グレープフルーツ

lily2oo
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今すぐグレープフルーツジュースが飲みたい。そんな脈絡のない欲望に支配される瞬間が、人間には存在する。グレープフルーツジュースには、人を惹きつける何かがあるのだ。それは少し濁ったオレンジ色だったり、甘くて、苦くて、酸っぱい味だったり、喉に残るイガイガ感だったり、葡萄でもないくせにグレープがつく名前だったり。チグハグな飲み物なのだ。でも、そのチグハグさに愛おしさを感じてしまう。

 つまり、何が言いたいのかというと、私は今、グレープフルーツジュースが飲みたくて仕方ない。だからこそ、寝ぼすけの体を引きずって、早朝のコンビニに足を運んだのである。しかし、無い。無いのだ。りんご、みかんと並んであったはずのグレープフルーツジュースが無いのだ。その事実を知った瞬間、私の体は虚脱感と全能感に包まれ、コンビニの少し汚れた床に横たわってしまった。

 なんてことはなく、人生が全てうまくいっているような爽やかな顔で家に帰り、少し冷えたベッドで二度寝をした。私はどれだけ悲しくとも、地面に顔を擦り付けて、駄々をこねることはできないのだと、少し悲しくなった。その日の二度寝は不眠の私にしては、よく眠れた。起きた頃には、飲み物など何だって良い、いつもの私に戻っていた。このグレープフルーツチャンスを逃した私は、きっとこの先も幸せにはなれない。少し歩いてスーパーに行くほどの、欲求に対する素直さを持ち合わせていない私は、この先も幸せになるチャンスを逃し続けるのだろう。

 私は、自動販売機でお茶を買って、二度寝によって遅刻が確定した高校へと向かった。

2020年12月28日 21:00

@lily2oo
某デ大生です