とにかく、出す

Lisa
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編集記者時代に、上司から言われ続けていたこと。

「とにかく、出すんだ!」

面白い企画を考えるのは得意だった。今でもアイデアはたくさん浮かぶし、考えているときはワクワクする。けれど、アイデアだけでは企画は完結しない。アイデアを形にしてこそ、やっと人に届けられるのだ。

当時は、出すことがどんなに大事かをわかっていなかったように思う。そもそも、アイデアを過大評価して、実行する力を過小評価していたのかもしれない。

「出す」と一言でいっても、そこに至るまでにはさまざまな壁がある。まず、数ある企画の中から選ぶこと。必要なリソースを確保すること。企画をより具体化すること。文字やデザインに落とすこと。アポを取ること。インタビュー・取材すること。商品になる文章にすること。編集すること。...

これらの長い工程を経て、はじめて世に「出す」ことができるのだ。アイデアをワードに書いただけでは、何も起こらない。その言語化したアイデアをもとに、誰に届けたいか、どのように伝えるか、をより具体化する作業のもと成り立っている。

私が取り組んでいたのは記事コンテンツだったが、これはどのコンテンツにも適用できる。BTSのSUGAも、見習いプロデューサーが行き詰まっているときには「まずは(曲を)出すことだよ」とアドバイスをしていたと本人が語っている。

出すことの効用は、出したあとにも現れる。出すことでフィードバックがもらえるのだ。思い通りだったところ、意外だったところ。読者の反応は何よりも大切な、学びの宝庫だった。わざわざ直接、記事の感想を具体的に送ってくれた読者もいた。耳が痛くなるような厳しい指摘も、的を得ていて振り返ると成長の糧になることも多かった。

「とにかく、出す」——いまこの言葉の大切さを噛み締めている。だからこそ、エッセイもコンテンツも、頭の中にとどめておくのではなく、友達に話して満足するのではなく、出すのだ!

自戒を込めて。

@lisa
パリで家族3人で暮らしています。「アートで心が豊かな社会をつくる」ために、いろいろやっています。フランスでの日常、子育てのこと、アートのことなど。www.theartscene.com