あらすじは以下の通り。
〇2011年7月に日経BP社から刊行された単行本の文庫化。単行本は『日経レストラン』誌連載「土壇場の経営学」をベースにまとめたもの。理系経営者ならではのロジカル思考満載の一冊だ。
〇「安心感を与える値付け」「ヒットを生む2つの大原則」「儲かる店を作る財務」「値下げの限界点を見極める」「多店舗化のポイント」「人材の育て方」「自社の強みをどう磨き抜くか」といった、経営に携わる誰もが直面する課題について、その解決策をズバリ答えている。
〇タイトルの意味は、「自分の店の料理が美味しいと言ってはいけない。なぜなら、自分の店の料理をうまいと思っていたら、売れないのはお客さん、景気が悪いということにしてしまう」ということ。「良いものは売れる」という考え方は昔の天動説と同じであり、もう改善を進められなくなってしまうと自らを戒めている。
サイゼリヤ創業者で代表取締役会長の正垣泰彦氏が同社の歴史とそれを支える経営哲学や財務指標、組織の在り方等について語る本。2023年8月期末時点で連結売上は 1,832 億円、日本国内に 1,055 の店舗、中国やシンガポール、台湾など海外にも 500 店舗近くを数える巨大チェーンを一代で築き上げただけあって、面白い話がたくさん詰まっている。
タイトルの「おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ」は少し煽り気味だが、本書に著されるサイゼリヤの経営哲学をよく表している。
著者の主張の前提として、飲食店業において絶対的な「おいしさ」は存在しないという思想がある。つまり、商圏内に住むお客の期待(日常的に利用する店なら単純な味付け、ハレの日に行く店なら凝った味付け)に沿った品質・価格の料理を食べられる店には繰り返し多くの客が来る、これが著者の考える「おいしい」店だ。
経営者や料理長の感覚で自分の料理を「おいしい」と思ってしまうと、店がうまく行かない時にお客さんや景気が悪いという結論になってしまい、そこから改善することができなくなる。この考えがタイトルの「売れているのがおいしい料理だ」に繋がっている。
サイゼリヤは1971年に千葉県市川市に1号店を開店した。立地が悪く客は1日数人しか来ず、開店7ヶ月目には客同士の喧嘩で石油ストーブが倒れたことで火事が起き、店が燃えてしまった。再開後も相変わらず客は来なかったが、思い切ってメニューの価格を大幅に引き下げたら(最終的には7割引)1日20回転するほど大勢の客が来るようになり多店舗化していった。
低い客単価で従業員の給与を上げていくにはより多くの客を集めて売上を増やし、店舗の運用を効率化して経費を減らす必要がある。経費が減ればそれだけ食材の品質や従業員の給与にかけられる金額も増える。
サイゼリヤでは各店の店長には売上目標がなく(商品開発部門には売上目標がある)、1日の粗利益を1日の総労働時間で割った「人時生産性」をいかに高めるかが重要だそうだ。全社で共通の目標(客数を増やす)を置き、各自が責任範囲の中で単純な目標(店長であれば人時生産性)を追いかけることで全体が成長しているのは強い組織だという印象を受ける。
サイゼリヤはチェーンの飲食店としては高めの原価率(2023年8月期で約 40%)だが、毎期利益を計上しており従業員の平均年収も飲食業の中では非常に高い(2023年8月期で 660 万円)。
著者によると売上に対して原価率を 40% とし、残った 60% の粗利益のうち 40% を人件費、20% を店舗賃料、20% を水道光熱費などその他の費用とするのが長く愛される繁盛店を作るのに理想的な配分らしい。この計算に従うと営業利益は粗利益の 20% だから売上の 12% となる。
業態によるが、一般的な飲食店だと原価率は 30% 程度と思われる。サイゼリヤは調理や運搬が相当に効率化されているはずだが、減った分を客に還元する(例えば自社の商品にあった野菜を種子から開発するなど)という方針で経営しているそうだ。
私は飲食店経営者ではないが、組織全体で単純な数値目標を置くこと、儲かるための財務構造を考えること、普段の仕事と評価・教育・報酬を連動させること、現場の作業を可能な限り言語化・標準化すること、お客さま本位のものの見方など、どんな仕事にも通じるような金言が多い本だった。そしてサイゼリヤに行きたくなってきた。青豆に卵乗ってるやつとミラノ風ドリアが好き。