Mozilla Foundation の財務状況

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Mozilla Foundation は米国 501(c)(3) の非営利団体であり上場企業ではないが、毎年11月~12月頃に State of Mozilla という年次報告書で連結財務諸表を開示している。

Mozilla Foundation およびその子会社(以下まとめて Mozilla と呼ぶ)の主な収入は以下の3種類に分けることができる。

  1. 検索エンジン会社からの Royalty

  2. 自社サービスによる売上

  3. 寄付や投資などその他の収入

1 は Firefox を通じて検索エンジンを利用した場合に検索エンジン会社から支払わられる報酬で、収益の大部分を占めている。2022年の Royalty は $519M で、収益全体の 86.0% を占めていた。この収益は Firefox の利用者数と Mozilla と Google, Baidu, Yandex など検索エンジン会社との間の取引条件によって増減する。5年前の2017年の実績が $539M なので、減少傾向にあることが見て取れる。これは Firefox の占有率が年々減少し続けていることが原因と考えられる。

2 は Mozilla が自社で運営しているサービスによる収入で、ブックマークアプリの Pocket や Mozilla VPN、 Firefox Relay から生じる売上で構成される。2022年の実績は $76M で収益全体の 12.8% を占めていた。2022年は YoY+33.9% 成長し売上は年々大きくなっているが、Royalty の収益成長鈍化を補える程ではない。

3 には Mozilla に対する寄付や投資、利息による収入で構成される。これは収益の 1 ~ 2% で、全体に与える影響は少ない。

収益は減少しているが財政状態としては健全で、2022年末時点で総資産は $1,322M、純資産は $1,198M(自己資本比率 90.6%)となっている。また2021年には $212M、2022年には $144M の純利益をあげており、営業キャッシュ・フローも大きなプラスなので組織の継続性には問題がない。

Mozilla の経営方針としては、検索エンジンからの Royalty 減少を補うように新規事業で収益を成長させていきたいように見える。2020年には250人をレイオフしたが、その際のブログでも新製品や新技術に投資していく旨が表明されている。

レイオフによって大きく影響を受けたのは Mozilla の製品やサービスの開発者だったようだ(それはそう)。開発者の人件費はレイオフ前の2019年は $210M だったのに対し2022年は $171M だが、管理部門および経営陣の人件費は2019年の $109M に対して2022年は $111M だった。

一方で CEO の Mitchell Baker 氏の報酬は上がり続けている。State of Mozilla で公開されている Form 990 を見ると以下のように推移している。これでレイオフされた開発者を何人雇えるだろうか。

  • 2019年: $3,046,617

  • 2020年: $2,698,800

  • 2021年: $5,591,406

  • 2022年: $6,903,089

(個人の意見です)これが株式会社だったら主力製品のシェア減少に手をこまねいて(State of Mozilla でも Firefox にてこ入れするような話は特になかった)新製品の投入も遅れているのに開発者を解雇して高額な報酬をもらっている経営者はとうの昔にクビになってもおかしくないと考えられるが、Mozilla Foundation は株式会社ではなく非営利団体なので独自のガバナンスに従っている。

Mozilla が目標とする "a better Internet" や公開されている Manifesto に沿っているかを判断するのはあくまで現在の Board であり、株主総会のような外部からの圧力は働きにくい。

そもそも資金の出し手ではなく広く社会全体に奉仕することが非営利団体の存在する目的なのだから当然ではあるのだが、ガバナンスの構造が貧弱になっているので、その組織が使命を果たしているかを(開示された情報をもとに)判断する責任は社会全体にある。

なお最近話題になった OpenAI, Inc. も米国 501(c)(3) の非営利団体である。

@llll
経理 → プログラマー