最近、政府のスタートアップ育成5ヵ年計画にも取り上げられているような様々な制度改正があり、ストックオプション(SO)は株式報酬として使いやすい制度になっている。まだ適用されていないものもあるが、これほど早く改正が進むのはスタートアップに対する期待の高まりを感じる。
SO は予め定められた行使価額で株式を購入する権利で、購入時に株式の時価が行使価額より上昇している場合(そうなることが期待される)はその差額が SO 権利者の利益となる。所得税の原則から言えばこの利益は権利者の報酬として給与と合算し総合課税されるが、SO は租税特別措置法により特定の条件(一般に税制適格と呼ばれる)を満たしていれば株式の譲渡益と同様に一定の税率で分離課税される。
日本以外の国でも同様に SO は所得税の例外的な措置として制度化されている。例えば米国では ISO(Incentive Stock Options)と呼ばれる制度があり、日本とは異なる要件がある。例えば日本では SO を行使して株式を取得した後はいつ売却してもよいが、米国では行使後に一定期間株式を保有し続けなければ税制上の優遇措置を受けることができない。他にもさまざまな税制上の相違点がある。
ここで問題となるのが、発行体の納税地と SO 権利者の納税地が異なる国や地域にある場合だ。例えば GitLab 社は上場前に米国内の従業員向けに ISO を発行していたが、米国外の従業員に対しては非適格ストックオプション(いわゆる NSO: Non-qualified Stock Option)として原則通りに所得税が課税されることになる。
米国と他の国で双方の税制適格を満たすような SO を設計することは不可能ではないがコストがかかる。また、権利者の納税地が増えれば増えるほど複雑になっていく。
Automattic という会社はストックオプションではなく、議決権がない株式を定期的に売買する仕組みを導入している。購入は半期に1度、売却は四半期に1度のウィンドウが用意されている。購入者は Automattic 株を1年以上保有した後、株式を売却できる。売却先は Automattic 社のみであり、同社が自己株式として保有し購入希望者に売却する在庫となる。退職後も株式を保有・売却することはできるが、新たな株式の購入はできない。
これは従業員が現金を用意する必要があるが、SO と比べて従業員の納税地ごとの税制の違いを気にする必要性が低いというメリットがある。
SO ではなく株式の売買にした理由としては Automattic 社の従業員が世界中に散らばっており各地の税制適格を満たすことが難しいから、と数年前どこかの podcast で創業者の Matt さんが喋っていたのを聞いた気がするのだが、見つけられなかった。見つけた人がいたら教えてください。