感想: 群論への第一歩 / 結城 浩

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あらすじは次の通り。

集合、写像から準同型定理まで

『数学ガール』の結城浩が贈る、大学数学の学び始めにぴったりの一冊!

集合、写像から理解を積み上げながら、準同型定理までをわかりやすく解説。 数学を独学したい人、再挑戦したい人にお勧めです!

数学の一分野である群論の基礎を学ぶための入門書。

入門書だけあって「群」の定義に入るまで75ページ(本書全体の 1/4!)をかけてその前提となる「集合」や「写像」の説明がされており、各章末には学んだことを対話形式で振り返るコーナーや理解度を確認するための演習問題がある。演習問題の出来がちょうどよくて、基本的には簡単に解けるが理解に穴があると的確にそこを突いてくる。

個人的には章末の対話コーナーが好きで、自分のような高校までしか数学をやっていない人間が当然に持つであろう疑問(これだとだめなのか?とかこれ分かったから何かいいことあるの?)を先回りして回答してくれる印象を受けた。対話や演習問題で分からない箇所があったら一章分戻ってやり直すことで最後まで挫折せず読むことができ、とても親切な本だった。

そもそも自分が数学の「群」に興味を持ったきっかけには以下の3つがある。

  • ビットコインの本を読んでいて簡単な仕組みを実装する過程で、ガロア体上の楕円曲線の点が形成する群の構造を利用して暗号鍵の生成等を行った。この時は本を参照しながら進めていたので実装はできたのだが、単位元・逆元・加法群など数学用語の意味や用法を実装に必要な範囲で解釈しながら読んでいて、よく分からない印象のまま通り過ぎてしまった。

  • 暗号や認証の仕組みを図解する本を読んでいて「準同型暗号」という暗号を知った。暗号文を復号せずさまざまな処理を行うための方式で、秘密鍵を持たない第三者が暗号文のままデータ処理できるのでプライバシーが重視される分野(秘密計算など)で使われている...らしい。

  • 複式簿記を数学的な性質から研究されている方がいて(参考)、自分が過去に経理の仕事をしていたこともあり簿記の数学的構造という視点を新鮮に感じた。

群は集合とその集合上での演算が特定の条件を満たすという定義を利用して数学的な問題や構造を解析するために使われる。例えば群論を築いた数学者エヴァリスト・ガロアは5次交代群の性質を利用して「5次以上の方程式には代数的解法が存在しないこと」を証明したらしい。

出発点となる集合や写像、群の定義を見ると「当たり前のことを言ってるだけじゃないか?」と感じるのだが、その「当たり前」と言える性質を利用しながら一歩ずつその概念が応用できる範囲を広げていく過程は面白い。

本書を通じて数学の基礎の基礎となる考え方にも触れることができた気がする。まず抽象的な概念(例: 集合、写像、群)を定義し、定義から得られる性質を基にその概念を拡張して定理を導き出す。高校で数学を勉強していたときに学校で習った定理を家に帰って自分で証明していたことを思い出した。

@llll
経理 → プログラマー