この「工数入力するやつ」はさまざまな目的と方法があると考えられるが、自分自身の考えをしずかなインターネットに書いておく。
引用 RT すると通知されるのが好きではないし、スクショは嫌いだし、突然ツイートしてもそれを見た人間には前後のコンテキストが分からないし、ブログには書きたくない。
本題に入る。この「工数入力するやつ」の背景となる枠組みとしては、財務会計・管理会計・税務会計の3つがある。この記事では、自社で利用するためのソフトウェアを自社で開発してサービスを運用している会社を想定する。
まず財務会計上は、ソフトウェア開発費を原価・販管費として計上するか資産として計上するかという課題がある。資産計上するかは開発内容や会計基準によって異なるが、日本では将来の収益獲得が確実と合理的に判断できる場合は資産計上しなければならない。そこで、開発プロジェクトにかかった費用を集計する根拠として「工数入力するやつ」が必要になる。
教科書的にはそうなるが、実際には財務会計でソフトウェア開発費をプロジェクトごとに集計して資産計上するケースはそれほど多くないという印象がある。例えば Google の BS を見ると実際ほぼ計上されていない(繰延税金資産には入ってるので税務上はある程度の金額を資産として計上している)。また、私が過去に経理として働いたソフトウェア関連の企業でもソフトウェア開発費を財務会計で資産計上するケースはほぼ無かった。
次に管理会計上は、プロジェクト別に収支を計算したいという課題がある。これは企業が経営意思決定のためにやっていることなので、何時間何分の稼働がプロジェクトにかかりましたという細かい情報が必要であればその通りに「工数を入力」することになるだろう。
最後に税務会計上は、ソフトウェア資産計上の問題と移転価格の課題がある。財務会計上はソフトウェアを資産計上するかは会計基準に従うが、それとは別に国ごとに法人税を計算するためのルールがある。財務会計上は原価・販管費として計上しても、税務上は資産として計上しなければならない場合がある。資産として計上する場合は当然その根拠が必要になるので、「工数入力するやつ」を使うことになる。
最後に、移転価格について考える。複数の国や地域で事業を展開している会社(仮に A 社とする)であれば、A 社で働くソフトウェアエンジニアが A の子会社である a 社向けに機能を開発しているというケースが起こり得る。この場合、A は a に対して開発者の人件費に一定の割合を乗じた金額を請求しなければならない。
これをしなければ A は a に対して自由に所得を移転できるようになり、簡単に脱税ができてしまう。具体的には A が大幅な利益を計上し a が損失を計上しているとき、a の事業活動にかかった A の人件費を請求しないことで A の利益を a に付け替えて A の法人税を減らすことができる。大抵の国にはこれを防止する制度があり、一般に移転価格税制と呼ばれる。
移転価格税制の適用による課税を避けるために、複数の国や地域の法人で事業を展開している会社では誰がどのプロジェクトでどのくらい稼働があったかを示す根拠として「工数入力するやつ」が必要になる。
移転価格は単なる期間の入繰りに過ぎない税務上のソフトウェア資産計上と異なり、国家間の所得移転になる。追徴できそうな金額も大きくなりがちなので、税務当局としても調査の際に時間をかけて見る点になると考えられる(個人の感想です)。
このように「工数入力するやつ」は会計税務の枠組みによって要請されている。しかし、方法まで法令や法令解釈通達や会計基準で決められているわけではない。税務調査や会計監査の対応をした印象としては、実態と整合しており合理的な説明ができれば問題ないという印象を受けた。
例えば、本人が工数を入力しなくても上司は部下がどのプロジェクトにどのくらい関わっているかは把握しているだろうから上司が代わりに入力することは合理的と言えるのではないだろうか。
そもそも「工数入力するやつ」を作って運用するのにもコストがかかるので、それを正当化するだけのメリットがないならやらなくていいのではと思う。この辺を AI とかでいい感じにしてほしい。