14歳になった犬は、このところ寝てばかりいる。少し体毛が白くなってきたくらいで見た目にはそんなに老いを感じられないのだけど、目も耳も鼻も機能低下しているようだ。かつては危険ワードだった「おやつ」を耳元で囁いても、ピクリとも反応しない。以前は私たちが帰宅すると玄関まで出迎えてくれたのが、最近は部屋に入っても気づかずにリビングのソファで眠りこけたまま。とはいえ足腰が不自由というわけでもなくて、少し寂しい以外は特に困ることはない。
昨日ちょっとしたことで動物病院に連れて行ったら、先生には「日中寝ていたら、無理やりにでも起こしてかまってあげてください」と言われた。柴犬は認知症になりやすく、症状が進むとひどい夜鳴きをするケースもあるので、これまで以上にコミュニケーションを取って五感に刺激を与えるのがよい、ということだ。気持ちよさそうに寝ているときに起こすのは気の毒な気もするが、犬の介護も大変だと聞くし、人間があまりストレスを溜めずに暮らすためにはそうするのがいいのだろう。
そんな感じで犬の気性は概ね老犬らしく穏やかになりつつあるのだが、例外もある。人間の食事の際の要求が激しくなった。以前であれば、食事中に後脚で立ち上がってテーブルに顎を乗せ上目遣いでこちらを見つめる程度の控えめな態度であったのだが、いまは「よこせ さもなくば殺す」と言わんばかりの勢いで、私の脇の下から顔を突っ込んで皿や箸から直接食べ物を略奪しようとしてくる。頑なに拒んでいると、これまで聞いたことないような悲痛なトーンでアンガー!アンガー!と憤る。犬の言語は概ね意味不明だが、Angerだけはしっかり伝わるのですごい。
年齢を重ねて徐々にこうなったというわけではない。昨年犬は血栓症で死にかけた。1週間ほどの入院を経て奇跡的に(?この表現が適当であるとは思わんけど、先生がそう言ってた)回復したが、それを境に急に変わってしまった。死にかけて、何か思うところがあったのだろうか。それまで頑なに守っていた「犬の分際」を弁えるのがバカらしくなったのかもしれない。それならそれで喜ばしいことのような気もする。自宅でご飯を食べるリラックスタイムが犬との攻防に終始するようになったのだけは少し辛い。