ドラゴンクエストⅢ「おおぞらをとぶ」について

ラブムー
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目が覚めた時、その流麗で寂寥感のある音楽がまだ耳に残っていた。

夢の中で音楽を聴いた、あるいは聴こえたことは多分ほとんどないのだけど、今日ははっきりと聴いた。

曲は「おおぞらをとぶ」。言わずと知れたドラゴンクエストⅢで流れる通称「(不死鳥)ラーミアの曲」。

夢の中で聴いた「おおぞらをとぶ」は、地方都市の屋外に設置されたスピーカーから流れていた(レコードプレイヤーやPCを置けるようなスペースはなさそうだったから、音源はCDかラジオだと思う)、僕は何故か屋外でその曲を聴けることに感動しながらも、2台の小ぶりのスピーカー(メーカーはたぶんDENONだった)から出る音にもうひとつ満足がいかず、スピーカーの位置や音量を細かく調整していた。

やがてそこそこ満足いく音になってきたので、さあ、思い出の曲にじっくり耳を傾けるか……と考えていたら目が覚めてしまったのだった。

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現実において、「おおぞらをとぶ」を初めて聴いた時のことは今もよく憶えている。さすがに「昨日のことのように」とは言わないが(いったいどれだけ経ったのか…)、あの時の、心が震えたような感動は不思議なほど色あせていない。ビデオゲームにおいて、そうした音楽的感動を得た記憶はいくつかあるのだけど、「おおぞらをとぶ」はその中でも相当大きなものだ。

曲を知らない方のために一応説明しておくと、「おおぞらをとぶ」は、ドラクエⅢで、タマゴから孵った(孵した)ラーミアという鳥に乗ると流れる曲だ。その時のことをやけに憶えているのは、ドラクエにおいて「空を飛ぶ」というシチュエーションが初めてだったから、というのも大きいだろう。それは「船に乗る」(これはドラクエⅡが最初だった)とは全く違った所感をプレイヤー(僕)にもたらした。

その時、僕はコントローラーを握りながら、世界を鳥のように、魂のように俯瞰していた。思えば、ラーミアで飛んでいる時、敵が一切出現しない仕様にしたのは英断(迷いもしなかったかもしれないけど)だったと改めて思う。空を飛ぶ時くらいは、世界(ドラクエにおいても、現実においても)からすっかり離れて飛び回り、眺望していたい。

我々ドラクエファンの、すぎやまこういち氏の仕事に対する感謝はまったくもって計り知れないほど大きいはずだけど、自分に関して言えば、「おおぞらをとぶ」という楽曲を作ってくれたことが(ひょっとしたら)いちばん大きいのかもしれない。夢の中で、そんなことを考えていたように思うし、夢から覚めてからも、あの旋律がしばらく頭から離れなかった。

となると、「おおぞらをとぶ」を聴いた時と同じ年に『交響組曲ドラゴンクエストⅢ』のCDを初めて聴いた時のことも記しておきたいところだけど、これは次回にとっておきます。

@lovemoon
ポップカルチャーとゲームをこよなく愛するライター/ゲーム翻訳者。文筆/創作/翻訳(英→日)I love writing, literature, music and poetry. 『名曲喫茶 月草(2012-2020)』元店主 bsky.app/profile/lovemoon.bsky.social