背景
私の親しい友人がアルゼンチンに留学に行く。しかし、現在のアルゼンチンは物価の高騰*や、急進的なリバタリアンであるハビエル・ミレイ氏の大統領就任など、混乱が絶えない。私は友人を思うと、この暴動のことを調べずにはいられなかった。また、このような経済の混乱の根底には、かつてのアルゼンチンの国家の凋落が関係しており、これは現在の日本経済にも当てはまる部分があるらしい。これを学ぶ。
*アルゼンチン国家統計局(INDEC)によると、消費者物価指数(CPI: 消費者が購入する物品の価格の変動率)が2023年には前年同月比211%上昇した。
現代のアルゼンチンの主要データ
基本データ(引用: 外務省)
人口: 4,623万人
政体: 立憲共和制
元首: 大統領(任期4年、1回のみ再選可)
失業率の推移(引用: 世界経済のネタ帳)
*世界の失業率平均が5.1%なので、相対的に高い
一人当たりのGDPの推移(引用: 世界経済のネタ帳)
貿易品目(2022, 引用: 日本貿易振興機構)
農畜産物加工品: 37.4% (食品産業残留物* 15%や食物油脂 10.4%を含む)
一次産品: 27.0% (穀物、油糧種子など)
工業製品: 26.1% (陸上輸送機器 9%, 化学製品 6.9%など)
燃料・エネルギー: 9.5% (うち原油 4.4%)
*食品産業残留物は、動物肥料やバイオマス燃料、堆肥化材料
(参考)2020年の日本の輸出品目
輸送用機械: 21.1%(自動車14.0%など)
一般機械: 19.2%
電気機器: 18.7%
化学製品: 12.5%
貿易収支の推移(2020, 引用: 白書・審議会データベース)
(参考)2023年度の日本の輸出額が約98兆円(6,500億ドル)、輸入額が118兆円(7,900億ドル)、つまり約20兆円(1,400億ドル)の貿易赤字である。
考察
アルゼンチンの貿易品目は第一次産業が多くを占めている。国土の25%を占める豊かな国土・パンパにて、アルファルファやとうもろこしを栽培し、牧牛を行っている。一人当たりGDPが1980年台から大きく伸びていないのは、第一次産業中心の産業構造を、工業化によって変化させられなかったからであろうか。
アルゼンチンの歴史
15世紀〜16世紀: インカ帝国による支配
1516年〜1810年: スペインの植民地
以降、内乱の時代を経て現代に至る
経済
2度の世界大戦に関与せず、各国への農畜産品の輸出で大きな利益を得た20世紀半ばまでは、世界有数の富裕国であった*。しかし、20世紀後半の産業構造の転換に失敗し、第一次産業中心の経済を脱却できず、経済が低迷した。
*1962年の一人当たりGDPは1500ドル強であり、日本の600ドル、英国の1500ドルを上回っていた。
引用: Wikipedia
アルゼンチンの政治とミレイ氏
アルゼンチンは元来、1950年台にフアン・ペロンが推し進めた左翼*ポピュリズム**の反動により、過度な社会保障制度や国内企業の過度な保護といった政策が行われていたが、結果として経済が弱体化した***。
ハビエル・ミレイは、リバタリアン的・親米の政治家・経済学者であり、2023年の大統領選にて当選した。アルゼンチンの弱体化した経済を改善すべく、省庁の再編や公共事業の見直しといった経済合理性を重視した政策によって、経済の強化を図る。物価高や失業率の高騰に苦しむ若者を中心に、高い支持を集めたと考えられている。
*左翼: より平等な社会を目指すための社会変革を支持する層のこと。リベラルや共産主義を含む。
**ポピュリズム: 政治変革を目指す勢力が、既存の権力構造やエリート層を批判し、人民に訴えて、その主張の実現を目指す運動。
***アルゼンチンはこれまで、9回債務不履行(国債の償還金の支払いが出来ない)に陥っている。
社説 - アルゼンチンの過去と日本の現在
かつて、アルゼンチンは第一次産業中心の経済を脱却できず、産業が低迷した歴史を持つ。また、行き過ぎた社会保障制度による納税負担の増加、反エリート志向による優秀な人材の海外流出といった課題を抱えていた。これは、現在の日本にも当てはまることではないだろうか。国内企業は若手の優秀な人材に賃金を払わず、大学は研究者に賃金を払わず、優秀な人材は国外や外資系企業に流出している。これはかつてのアルゼンチンのように、今後長きにわたって経済が停滞する前兆なのではないだろうかと考えている。私個人としては、外貨獲得が可能で、かつ国内の研究需要を高めることが出来るような事業を立ち上げ、自国の経済の発展に貢献できるようになりたいと強く思う。