掌に置かれた薄緑色の石。
摘み上げてみると、店内の明かりに反射してきらりと輝いた。
どこか見覚えのあるそれをじっと眺める。「それはリドリーだ」
売人から告げられた言葉を反芻してみた。
リドリー……金物屋の息子で少し無作法な男。
店の明かりが付かなくなったと思ったら、こんなところにいたらしい。
彼がこんなにも透き通った純度の高い宝石になるなんて、少し意外に思えた。
人は死ぬと石になる。
よく分からないこの世の理。
二十年前まではただの意味の無い石ころにすぎなかったそれが、今は都市のエネルギー源となっているのだからおかしなものだ。
人の命は死ぬと道具になる。
そうでなくとも偽りだらけの均衡を目指す政府によって支配されたこの世界に自由はないのに。
『俺は一際大きくて質のいい石になる。だから食ってくれるなよ』
彼は笑ってそう言った。
死を恐れてはいなかった。
命を終える者には決して見えなかったが、当人は予兆のようなものを感じるらしい。
僕はそれを黙って聞いていた。
宝石に特製のハンマーを振り下ろす。
硬いのは表面だけで、内側は脆い。
お手ごろなサイズになった薄緑色の石。
・・・・リドリーは今頃怒っているかもしれない。
彼の最後の願いは叶うことはないのだから。
目の前の石を摘んでひょいっと口に放り込む。罪悪感が喉を通り抜ける。
こくりと飲み込むと、体温が上昇した。
「確かに……君は長持ちしそうだ」
どんな仕事でも請け負う僕の報酬は石。
初めてそれを口にした日から変わった僕の体は生きながら呪いを受けて、政府が巻き上げ損ねたそれが僕の糧となる。
裏では僕は宝石泥棒と呼ばれているけど、本当は宝石喰い。
それを知っているのはもう死んだ彼らだけ。
籠った熱を吐き出すように息を吐く。
潰れた酒場から外に出ると、頭上には雲ひとつない夜空が広がっている。
どこか見覚えのあったあの色は、あいつの瞳の色だったと気がついたのはもう随分経ってからだった。