物語は、この意味深長な一文からスタートする。
杉森くんを殺すことにしたわたしは、とりあえずミトさんに報告の電話を入れた。
誰かから「わたし、人を殺します」なんて宣言をされたら、普通は慌てて止めるだろう。だが電話先のミトさんは、主人公ヒロの決断を止めたりしなかった。それどころか「殺人犯として捕まる前にやりたいことをやっておくこと」「杉森くんを殺す理由をまとめておくこと」の二つを、ヒロに指示した。ヒロはその指示に従い、考えを巡らせはじめる。
一体、杉森くんは誰なのか。どうしてヒロは杉森くんを殺したがっているのか。読者が抱く疑問が、物語を読み進めるうちに少しずつ解明されてくる。
この小説は、いわゆる「YA(ヤングアダルト)」に分類される。読み終わって一番最初に考えたのは、「もし僕が中学生・高校生の時にこの本を読んでいたら」ということだった。
これから読む人には、真っ新な状態でこの本を読んでほしい。なので、あまりネタバレになることは言えないのだが、これは誰かに依存したり依存されたりしてしまう若者のお話である。
わたしは良子さんに、わたしの精神安定剤になってほしくない。杉森くんがわたしを、自分の精神安定剤にしようとしたみたいには、したくない。
僕には杉森くんだった時代も、ヒロだった時代もある。だからなのか、青春時代に胸に刺さった小さなガラス片を、この本を読みながら久しぶりに意識することとなった。他の人はどうなのだろう。杉森くんやヒロのように、人との関わり方、距離感に迷い、大きく間違えた時期があったのではないのだろうか。
もし今、友人との関係に悩んでいる若者がいるなら、この物語から何か光を見出せるかもしれない。もし昔、友人との関係に悩んだことがある元・若者がいるのなら、本書を読んだあと、心の中で膝を抱えている若い時の自分に会いに行ってほしい。そして、「きみはあの時、きみのできることをやったよ」と優しく声をかけながら、抱きしめてあげてほしい。
ジャンルは「YA」。だが、そんなこと関係なく、人との関係に悩んだ経験のある人全員にオススメしたい一冊。