年始に実家へ帰省した。
母はいつもご馳走を用意して迎えてくれるが、今回そのうちのひとつが『きのう何食べた?』に登場したシロさんの江戸前風ばらちらし(ちらし寿司)だった。ドラマを見て献立に加えようと思ったとのことで、普段使わないアボカドを買い、そこそこお高いイクラも用意してくれた(ただしイクラは乗せ忘れた)。
『きのう何食べた?』は現代日本で暮らす中年ゲイカップルの食生活に焦点を当て、同性愛を取り巻く世間を優しくリアルに描く漫画およびそれを原作とした実写ドラマ作品だ。母は漫画を読まないがドラマは結構見るので、登場する料理を作るほどには作品を気に入ったのだと思う。
私は以前パートナーが同性だということを母に伝えて受け入れられず、受け入れられなかったことに対して幼い反発をぶつけてしまったことがある。親子関係は良好だが、その後結婚や恋愛についてはお互いほとんど触れずに過ごしてきた。丁寧に対話を重ねて理解してほしい気持ちをちゃんと伝えられなかったことを今も後悔している一方で、「そろそろ結婚は?」「いい人いないの?」と言われないことを快適に感じてもいる。
母が『きのう何食べた?』を見てその話題を料理だけでも振ってくれたのは、ただの偶然かもしれないしあくまでフィクションの話と割り切っているかもしれないが、もしかしてもしかしたら母なりの歩み寄りだったのかもしれない。「あれいいドラマだよね」「ちらし寿司おいしかった」くらいしか返す勇気がなくてごめん。
『きのう何食べた?』はとても信頼できる作品で、当事者だけでなくその近くにいる人のことも包んでくれる優しさがある。勇気が出ない私の代わりに母との隙間を少し埋めてくれたような気がして、作者さんとドラマ版スタッフのみなさんに感謝した。対話や理解が全てではないが、自分の希望としてはシロさんのようにいつか両親と話したいと思う。