険悪はいつも目薬から

しお
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学生時代の3年間、友人A・Bと3人で一軒家を借りて一緒に住んでいた。その話をすると「喧嘩とか起きなかった?」と聞かれるが、意外とそんなトラブルもなく平和に暮らしていた。ただひとつだけ毎回険悪ムードになる話題があった。それが「目薬を注して苦みを感じるかどうか」だ。

私の主張は「目と口はつながっている。目薬を差すと一部が口に届き、苦みを感じることがある」

Bの主張は「目薬が口に届くわけがない、苦みを感じたことなど一度もない」

この主張がぶつかると少し険悪になり、それぞれに援護を求められたAは「私は目薬を注すと目から涙のようにこぼれて直接口に入るので苦い」と言うので「それは目薬が下手すぎる」「お話にならない」とやいのやいのするのが常だった。

私はこの主張を疑ったことはない。人体の目と口がつながっているのも苦みを感じるのも事実だ。おそらくBは例外的に目と口のつながりが極端に狭い構造をしているか、味が分かるほど苦い目薬を使ったことがないか、根本的に味が分からない人間なのだろうと思っている。Bは鼻が利かず味覚も独特で、部屋中に腐臭を漂わせながら腐った物を気づかず食べていたこともあったのであまり感覚を信用できない。目薬を注すのがとても上手という説もあるが、そもそもこんな主張同士でバトルが発生すること自体不毛だ。苦いものは苦いし、つながっているものはつながっている。

なぜこんな話をしたかというと、まだ2月とは思えない陽気に混じって花粉の足音が聞こえてきたからだ。アレルギー用点眼薬はおおむね苦い。まだ注してもいないのに苦さを想起して眉を顰め、その度にあの不毛な同居生活を思い出している。

@m_shiroh
140文字以上の文章を書く練習をしています。