長年同人誌を出し続けているサークル主さんから「実はここ最近、全然違うジャンルのイベントで全然違う名義で本を出してるんです」という話を聞いた。
ジャンル最盛期には何度もコミケの壁に、時にはシャッター前に配置されたほど人気の絵描きさんだ。しかし本人は人気ジャンルでの二次創作で運良くファンがついただけで自分には不相応な状況だと思っているとのこと。自分のことを誰も知らないイベントでSNS告知すらせずひっそり本を出し、偶然目に留まったごく少数の人が買ってくれる以外は誰とも話さず在庫をまとめて帰るのが初心に戻ったようで楽しく心地よいのだという。
メインジャンルでも変わらず本を出しているし多趣味で忙しい人なのでどこにそんな時間が!?と驚いたが、誰も自分を知らない場所で根源的な楽しさに立ち返ることの意味はとてもよく分かる気がした。規模は違えど、私がここで文章を書き散らしているのもそれに近い行為なのかもしれない(とぼかして言ったら、それそれ!一緒です!と同意してくれた)。
共通の知り合いであるKも同時期に名前を変えて違うジャンルで再出発しており、コロナ禍による中断やTwitterの崩壊をきっかけにそういう周期が来ているのかな……と狭い半径の変化を感じている。
自分はといえば4年振りくらいにコミケに戻り誰も覚えとらんでしょと油断していたら思いがけず多くの人に来てもらえて、ありがたい以上に恥ずかしくなって穴を掘って入った。名前を変えるとか初心に返るとかのもっともっと手前のそれ以前の問題だ。覚えていてくれた人に応えたい、自分がやりたい描きたいと思いながら捨ててきたことを拾いたいと、長机の内側で感じたあの切実な気持ちを、次の機会までちゃんと覚えておきたい。