2024年10月7日、超党派の国会議員連盟が特定生殖補助医療に関する法案の最終案を示した。その法案には、生殖補助医療を受けられる対象を法律婚の男女に限り、それ以外の医療行為には罰則を設けるという内容が含まれており、インターネット上で批判が巻き起こっている。
旧Twitterでは「#安全な生殖医療を全ての女性に」「#安全な生殖医療を全ての方に」のタグで法案に反対する人々が連帯を始めており、私もこれに賛同して法案を批判する立場である。
特定生殖補助医療法案の最終案、罰則や利益授受禁止など 超党派議連
ー毎日新聞デジタル 2024/10/07
第三者から精子や卵子の提供を受ける不妊治療などのルールを定めた特定生殖補助医療法案の最終案が7日、超党派の国会議員連盟で示された。精子や卵子の提供・あっせんに伴う利益の授受を禁止し、違反した場合は最長2年の拘禁刑などを科す罰則を新たに盛り込んだ。年内の国会提出を目指す。
提供精子や卵子を扱う医療機関には認定制度を作り、あっせんは許可制とする。提供やあっせんに関わる利益の授受は禁止し、違反すれば2年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはその両方を科す。代理出産は認めない。
医療の対象は法律婚の夫婦に限り、事実婚や同性カップル、独身女性などは除いた。法律婚以外のカップルらに医療を実施した医療機関が中止などの命令に違反した場合は、1年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその両方を科す。
一方、精子提供では、ネット交流サービス(SNS)などで知り合った提供者との間で女性がトラブルに遭うケースも報告されているが、医療機関を介さない個人間のやりとりに対する規制は見送られた。
↓こちらは法案への反対運動を続けてきた方々の側に立ち、批判的な立場から問題を指摘する記事だ。
衝撃的な法案が固まる。女性&同性カップルの「希望が絶望に変わる」内容に「対象者の拡大を」当事者呼び掛ける
ーAll About ニュース 2024/10/09
10月7日に行われた「生殖補助医療の在り方を考える超党派の議員連盟」の会合。不妊治療に関する新法の最終案が提示された。第三者の精子、卵子提供による不妊治療は法律婚の夫婦に限定され、未婚で子どもを育てたい女性や同性カップルは排除されることに。将来、子どもを持ちたいと願っていた多くの人が恐れていたことが現実になってしまった――。(後略)
折しも10月8日は国際レズビアンデーだというのに、同性カップルをはじめ多くの人に暗い未来を突き付けるニュースとなった。同日には石破氏が選択的夫婦別姓への前向きな姿勢をあっさり翻したことも話題になり、政権を握る人たちがかくも家族の在り方を縛りつけることしか考えていないのかと繰り返し認識させられる。
生殖補助医療の適切な提供等に関しては、施行されている法律の一部が未だ検討段階であり、法整備が必要な状況であることは確かだ。今回の法案は約4年かけて審議されてきたものだが、まさか法律婚の夫婦以外に治療を認めず、補助や保険適用して後押しするどころか医療機関への刑事罰を定めるという内容で国会提出へ進むことになろうとは……。さすがに驚いた。
選択的夫婦別姓や同性婚がなかなか進まないのは百万歩譲ってまだ分かる。「新しい法律を作って制度を変えるにはコストが掛かるので、他の喫緊課題と天秤に掛けたときに優先度がまだ低く、反対意見もあるので現時点では慎重にならざるを得ないんですよ~」といった類の理屈は一応理解することができる(が、早く施行されるべきと考える立場であることには変わりない)。
しかし新しい法案を作ってわざわざ罰則を設け、コストを掛けてまで医療を受けられる人の種類を制限しようというのは一体どういう理屈なんだ。全く意味が分からない。
提供精子や卵子を扱う医療機関には認定制度を作り、あっせんは許可制とする →安全な医療行為のためには必要なのでわかる
精子や卵子の提供やあっせんに関わる利益の授受は禁止 →提供が過度にビジネス化したり金銭トラブルに発展することを避けるため必要なのでわかる(ただし医療機関は医療行為に対して適切な対価を得るべきであり、医療行為の安全性・対価の妥当性を担保するために認可制度は有効と考える)
代理出産は認めない →母体に負荷の大きい代理出産は人道的観点から認可すべきでないのでわかる
医療の対象は法律婚の夫婦に限り、事実婚や同性カップル、独身女性などは除いた →???
違反した場合は、1年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその両方を科す →????
医療機関を介さない個人間のやりとりに対する規制は見送られた →?????
要は事実婚カップル、同性カップル、独身女性、その他何らかの理由で法律婚しない・できない人は生殖補助医療を受けられないように制限しようという法案だ。これらの人々が自然生殖以外で子供を産みたいと希望する場合、医療を受けるためだけに偽装結婚するか、リスクを冒して認可外の怪しい医療機関や個人間取引に頼るしか選択肢がなくなってしまう。逆に言えばそれらを後押しすることと同義の危険な法案であると言えるだろう。
生殖補助医療で生まれて実の親を知らずに育つ子供がかわいそうだから? →法律婚の有無を問わず全ての生殖補助医療に同じことが言えるし、そもそも生殖補助医療の有無に関わらない普遍的な問題であり、医療対象を制限する理由にならない(医療対象外とすることで出自を知る手段を持たない子供が生まれやすくなることは、元の主張と矛盾する/子供が出自を知る権利やそれを踏まえた親の努力義務については法案内に別途記載があり、その妥当性はここでは論じない)
非嫡出子として生まれる子供がかわいそうだから? →生殖補助医療の有無に関わらない普遍的な問題であり、嫡出子・非嫡出子を差別・区別しない社会設計を目指すべきであって、医療対象を制限する理由にならない
法律婚をしていない親は不安定な立場だから? →生殖補助医療の有無に関わらない普遍的な問題であり、選択的夫婦別姓や同性婚による事実婚→法律婚化の促進・事実婚や同性カップルの社会的地位向上・ひとり親家庭補助などにより支援すべきであって、医療対象を制限する理由にならない
親権や認知を巡るトラブルが起きそうだから? →法律婚の有無を問わず全ての生殖補助医療に同じことが言えるので、医療対象を制限する理由にならない(個人間取引の規制を見送ることとも矛盾する)
色々考えてみても全く意味が分からない。家族の在り方や個人の選択が不可逆に多様化し、少子化が課題となって久しい現代において、未だに「国が決めた男女しか結婚させません!それ以外の人が子供を欲しがり、ましてや生殖補助医療を受けたいなんて言語道断、罰則です!」なんて法案が出てくるの、本当にどうかしている。「生命倫理の観点から生殖補助医療なんてものを認めるわけにはいきません!どんな人でも全面禁止です!」とでもいう方が、その是非は別としてまだ意味が分かるだけマシかもしれない。
一部の人が信奉する「伝統的な家族の形」のせいで、日本はずっとその他大勢を切り捨てながら先細っていくばかりだ。せめてこんな時代でも子供を産んで育てたいと思う人たちが、そしてその子供たちが、適切な医療と制度のもとで安心して生きていける国であるべきだろう。