今更ながら2024年の正月の話。長野→東京→大阪→兵庫と移動した後、せっかく長い休みだし西に行こうかな~とぼんやり考えていたのと、広島の友人に用事があったのと、両親から山口旅行が楽しかった話を聞いたのが重なって、山口県に行き関門海峡を歩いて渡ることにした。
関門海峡は鉄道、自動車、船、そして徒歩で渡ることができる。そう聞いてからずっと行ってみたかった場所だ。
山口側に車を置き、立派な関門橋を横目にエレベーターに乗れば、海底55~60mに設置された人道トンネルに到着する。トンネルの距離はわずか780m。歴史が深く今も多くの船舶が行き来する関門海峡はイメージするよりとても狭い。
県境はいつどこで見てもわくわくするが、海底となればなおさらだ。一方で今この瞬間にトンネルのどこかが崩壊したら海水が流れ込んで死ぬだろう想像も纏わりついて離れない。そんなスリルも相まって高揚しながら何枚も写真を撮って歩いたが、意外なほど他に観光客らしい人はいなかった。
現地で初めて気づいたが、このトンネルは地元の人にとってごく普通の生活路だ。運動部の学生がランニングしていたり、買い物袋を提げた高齢者が原付を押して歩いたりしている。海峡を徒歩で渡った対岸に用事のある人たちがいる。渡船が住民の足になっている瀬戸内でママチャリで船に乗り込む中学生を見かけるときと同じ気持ちだ。地域特有の当たり前がそこにある生活を垣間見られるのは遠出の良いところだ。
福岡県側では門司港を歩き、瓦そばを食べ、門司港駅の改札を眺め、関門海峡ミュージアムを周り、焼きカレーを食べ、バナナラッシーを飲み、鉄の味がする金平糖と手ぬぐいと実家用の瓦そばを買った。
レトロの名を冠するに相応しい門司港には明治から昭和初期の建造物が点在しており、街の象徴でもある門司港駅では古い邦画のような景色の中を現代も変わらず人々が行き交っている。どこを取ってもあまりに見栄えが良いので一見パッケージ化された観光地という印象を受けてしまったが、各々の建物が整然とは並んでおらずモダンな建築が自由に生えてきたような印象で、そのちぐはぐなところに却って本物を感じる不思議な魅力の街だった。
あと関門海峡ミュージアムで流れる歴史アニメの出来がやたら良いなと思ったら、初の元請アニメがポプテピピックという狂気の制作会社「神風動画」さんの仕事だった。
夕暮れになり風が冷たくなったので、マフラーを巻き直してまたトンネルを歩いて帰った。山口側のエレベーターから外に出る頃にはすっかり日が落ちて、真っ暗な海峡にさっきまでいた門司港の明かりがきらきらと反射していた。