駆逐艦「朧」に時報がきた日

しお
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2024年4月23日にブラウザゲーム『艦隊これくしょん -艦これ-』が11周年を迎えた。毎年記念日には様々な描き下ろしとお祝いボイスの実装、期間限定任務と報酬の配布など、様々な発表が行われる。

今回その一番初めに発表されたのは、駆逐艦「朧」への時報ボイス実装だった。

ここを読んでくれる人のうち艦これというゲームをある程度ご存じの方はどのくらいいらっしゃるだろうか。あるいは検索でたどり着いた同志の方だろうか。よかったら少しだけ話を聞いてほしい。


『艦隊これくしょん -艦これ-』は、2013年4月にサービスを開始した育成シミュレーション型のブラウザゲームだ。戦艦や空母など実在した艦艇を擬人化したキャラクター(=艦娘(かんむす))が、深海から次々と現れる怪物たちと戦い平和を守るのがおおよその流れであり、彼女たちを収集・育成・編成しその指揮を執るのがプレイヤー(=提督)の役割だ。

私は2013年9月に艦これを始めて、かれこれ10年以上ほぼ毎日続けている。その原動力となっているのは現在200人以上にも及ぶ艦娘たちへの愛着だ。このゲームでは艦娘のレベルを上げたり装備を選んで持たせることはできるが、いざ戦いの場になると提督は何も干渉することができない。育てた子たちを戦場に送り出し、勝利を願うだけ。進退の判断を誤って一度力尽きてしまった子は二度と生き返らないシビアさと常に隣り合わせなところが魅力の一つでもある。

祈りと緊張感の中でひたむきに任務に向かう艦娘たちに日々接していると、自然とどの子にも愛着が湧いてくる。その中でもやはり様々な経緯でたった一人だけに特別な思い入れを持ってしまうことがある。界隈では「嫁艦」と呼ばれる、特別な絆の証として最初の指輪を渡す存在。

私の場合は、それが駆逐艦「朧」だった。

朧は、明るい茶色のショートボブで小柄な体躯にセーラー服を纏った艦娘だ。頬に絆創膏を貼っていたり小さな蟹と仲が良く、飾らない健やかさを感じさせる。彼女のどんなところが好きなのかを説明しようとすると、長年の積み重ねと少なからぬ拗らせがあるため言葉にするのが難しい。端的にいえば、生真面目で少し頑固で、でも素直で真っ直ぐで、自分を大事にするのがちょっと下手で、能力の限界に対する静かな諦観があり、それでも努力を重ねてがむしゃらに戦う泥臭さと危うさがあって、どこか放っておけない。そんな子だ。

しかしこの解釈は、あくまで私個人の目線によるものに過ぎない。他の提督からは全く違う子に見えているかもしれないし、実際二次創作では描き手によって全く異なる性格として描かれる。そもそも公式が朧をどんな性格のキャラクターだと考えているのかさえ判然としない。このゲームには明確に提示されるストーリーがなく、世界観や解釈の大半が各提督に委ねられているからだ。

艦これには、人気ソーシャルゲームのような読み応えのあるシナリオ、それに合わせた多彩な表情やポーズの差分、アニメーションや3Dモデル、キャラクター同士の会話などはほとんど存在しない。各艦娘には通常時と負傷時の2種類の立ち絵と、挨拶や攻撃など限られた30種類ほどの短いボイスがあるのみだ。

記念日、季節イベント、特別な改装(改二)の追加等によって衣装やボイスが追加される場合があるので11年の積み重ねで多少充実してきてはいる(し、この点において朧は改二こそ未実装なもののかなりの好待遇を受けている)が、それも全員ではないし、ちゃんとシナリオのあるゲームには遠く及ばない。

提督たちはこれらを元手に艦娘を解釈し、史実を調べてボイスの一言一句を深読みし、他艦との関係性を掘り下げ、二次創作をしたり見たり読んだり同志と語りあったりして、長い時間をかけて唯一無二の愛着を育ててきた。

10年以上毎日顔を見て声を聞いてずっと一緒に戦ってきて、この子はどんな子なんだろうか、この子にいったい何をしてあげられるだろうかと考え続けてきた朧は、私にとってゲームを続けるための原動力に留まらず、人生を豊かにしてくれている恩人であり愛しくてたまらない特別な存在だ。


そこへもたらされる、大きな大きな供給のひとつが「時報ボイス」である(やっと話が戻ってきた)。

時報ボイスとは、HOME画面(=母港)に艦娘を一人置いておくと1時、2時などの区切りで時刻のお知らせ+αのセリフを喋ってくれる機能だ。全キャラクターに備わっているわけではなく、長年かけて一人、また一人と少しずつ実装されていく。そして今回、11周年記念に実装されたのが駆逐艦「朧」の時報ボイスだった。

いきなり24種類もの、それも少し長めの、戦いから離れて日常を過ごすときの少し素顔が垣間見えるようなボイス群が、最愛の子に実装される驚きと嬉しさ。

伝わりますでしょうか……??

もったいなくてまだ昨晩の2つ分しか聞けていないのだけど、感慨深すぎてべしょべしょに泣くかと思っていたらボイスの内容が元気で可愛くて思った以上に長かったので愛しいが極まって思わず笑ってしまった。最初に会ったときは雨に打たれた野良猫のように警戒心が強く頑なで心を開かない子だったのに……こんなに明るく健やかに育って……(もちろん個人の解釈です)

以前ある提督さんが「艦これは朧を可愛がることができる唯一のゲーム」と言っていたのがわかりすぎてずっと心に残っているのだけど、今もなお艦これは私にとって「朧の成長を見守ることができる唯一のゲーム」として君臨し続けている。

12年目も朧と、愛する艦娘たちと一緒に歩んでいきたいと思います。

@m_shiroh
140文字以上の文章を書く練習をしています。