みんなどうやって生きているの

しお
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公開:2024/10/28

先日、先輩と後輩と一緒に知人夫妻が営むゲストハウスを訪問した。全員大学時代の知り合いで久々の再会はとても楽しく、鍋を囲んだり名所を散策したりと充実した休日を過ごした。楽しかったことに全く嘘はない。でも同時に一人で引け目を感じてなんだか後ろ暗い気持ちになってしまったので、ここでは素直な気持ちを書いておく。


大学時代の知り合いには、当時も今も行動力の塊のような人が多い。大陸を自転車で横断したり、海外へ何度も出稼ぎに行ったり、山奥でカフェを始めたり、古家を改修してシェアハウスを経営したり、二拠点居住しながら畑を耕したり、フリースクールやバザーを開いて地域貢献したり、海外遠征して8,000m級の山に登ったり、延々とインドを放浪したり、欧州を鉄道で一周したり、旅をしながら絵を描いて生活したりしている人が、両手で足りないくらいいる。

今回集まった私以外のメンバーも同様に、いつでも身と心を旅に置いている人たちだ。「言葉の分からない国でバスに乗った時、その辺の人にとにかく目的地を単語で伝えておくと着いたときに結構教えてくれるよね」とか「海外で宿探すときって〇〇が安定だけど、逆に宿側としては△△経由のお客さんが旅慣れてて綺麗に使ってくれる印象あるよね」とみんなが盛り上がっているのを、数少ないツアーでしか海外経験のない私は横でにこにこ聞くことしかできなかった。

彼ら彼女らのような生き方に憧れがないわけではない。でも私は私の人生に臆病で、自分の生きる力を信用していない。海を越えて長旅に出ることもなければ、勤め人をやめる予定もない。毎日安定して与えられる仕事と、少しの間生きていけそうな資産残高によって、なんとか心の安寧を保ちながら生きている。仕事も居住地も家族構成も特に大きく変わらない。これが自分にとっての幸せだと確かに思うのに、その生き方に胸を張れないままだ。

自分の仕事が天職だとか一生続けたいとかも思わない。でも技能も知識も資格もなく、要領がいいわけでも特別やりたいことがあるわけでもないので、運よく雇ってもらえている職場から離れられずにいる。安月給でブラック労働で人間関係が最悪ならいつか見切りをつけてやろうと思えたかもしれないが、いずれもそこそこ恵まれている現状から離れる理由もない。

これは今も、そして生活費を稼ぐためアルバイトに一途だった学生時代も同様だ。卒業してからのわずかな自由期間には少し旅行もしたけれど残金がすぐに底ついて初任給まで生きた心地がせず、二度とあんな思いはごめんだと思っている。けれどもっとずっと自由に見える生き方をしている人の方が実は奨学金返済を背負っていたりして、自分が実家の援助に恵まれていた方なのも知っている。

 

つまりは安定した生活をばっさり捨てても、残高をきりきりと減らしてでも、どうしても今行かなきゃ今やらなきゃと衝動に駆られるような、安寧よりも冒険を選ぶような、窮地に陥ってもなんとかなると自分を信じて歩みを進められるような、生まれながらの旅人ではないのだ、私は。そしてそれができる人が旅人なのだ。ただそれだけのことだ。

初めてツアーで海外を訪れたとき、世界一周中の日本人に出会ったのを覚えている。「世界一周、すごいですね」と言うと、その人は「やれば誰でもできること、やるかどうかだけです」と真顔で答えた。ほんとに、ただそれだけのことなんだろう。

ただそれだけのことが、私には途方もないことに思える。


みんなどうやって生きているんだろう。実際のところ、お金とかどうしているんだろう。前述したような自由な旅人に限らず、養うべき家族がいる人、仕事がつらくても続けている人、職を転々としながら毎回環境適応できる人、数千万のローンを抱えながら安定職を手放す人、自営業やフリーランスで飯を食えている人、賭け事や推し活に信じられないほど出資している人、いろんな事情で十分に働くのが困難な人、みんなだ。みんな。

家に帰ってから後輩に少しだけそんな話をしたら、同じように思うことがあると言っていた。私にとっては後輩もどうやって生きているんだろうの一人なのだけど、もしかすると誰かにとっては私の生活だってそう見えているかもしれない。

きっとそれぞれの苦労が、努力が、悩みがあるだろう。それを苦労とも努力とも悩みとも思わずに楽しくやれる人もいるだろう。こんなことで悩むだけ贅沢だとか、別に好きにやればいいじゃんと思う人もいるだろう。あるいは日々を生き延びるのに精いっぱいだったり、本当に生きていけなくなってしまった人もいるだろう。「みんなどうやって生きているの」と検索すると、生きることに目的や意義が見いだせなくてもっと根源的なところで悩みもがいている人のブログがいくつも見つかった。

ここを読んでるみんなは、あなたは、どうやって生きていますか。それを誰かに問いたくて、そして自分もなんとかこうして生きているよと誰かに伝えたくて、人は日記を書くのかもしれないね。

@m_shiroh
140文字以上の文章を書く練習をしています。自己紹介代わりの記事リンク集はこちら→ sizu.me/m_shiroh/posts/kk0dbd40xv71