ゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』を始めてもうすぐ2週間。先輩トレーナーに日々教えを請いながら少しずつプレイしていると、ゲーム性の奥深さもさることながら、各ウマ娘に用意されたストーリー、ボイス、小エピソードの量が尋常ではないことが分かってきた。
一度育成すると確実に愛着が湧くし、別の子を育てる間にもどんどん他の子が登場して新しい一面を垣間見ることができる。季節、時間帯、体調によっても喋ることが変わるし、誰かの誕生日にしか見られない掛け合いもある。よくできたゲームでこわい。
このゲームのプレイヤーは、担当ウマ娘をスカウトして育成する新人トレーナー。ウマ娘たちは担当トレーナーとトレーニングを重ね、レースでの勝利を目指す。
ウマ娘はそれぞれに「憧れのウマ娘がいて、自分も同じように輝きたい」「何かコンプレックスを抱えていて、勝つことで克服できるかもしれない」「優れた才能はあるのに、それをうまく発揮できない」といった目標や悩みを抱えている。トレーナーは「夢を一緒に叶えたい」「勝利へ導いてあげたい」「才能を引き出して新しい景色を見たい」といった気持ちから彼女たちを手助けするのがシナリオの主な流れだ。
しかし個性豊かなウマ娘が100人近くいて各3年間の時間経過もあるため、バリエーションは実に幅広い。まだ大した数の育成はできていないが、プレイしながらちょっと泣いてしまったくらい良かったシナリオを今の気持ちとうろ覚えのままにメモしておく。
※以下ネタバレです!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
◆イクノディクタス
真面目で聡明なウマ娘。緻密なスケジュールと詳細な記録によって自己管理を徹底しているが、意外とノリが良く友人想い。彼女が鉄の意志と共に掲げる「誰よりも長く、誰よりも多くのレースを走る」という目標を達成するため、トレーナーがサポートする形でシナリオが始まる。
レースは過酷で怪我を負う者も多く、競技人生を絶たれるウマ娘も少なくない。ライバルたちが次々と故障していく中、イクノディクタスとトレーナーの目標は「誰より長く多くのレースを万全の状態で走り続け、それにより磨かれた育成手法と蓄積された膨大なデータを社会に還元し、怪我による悲劇を少しでも減らしたい」という競技界全体への貢献に収束していく。
真面目なデータキャラが主役なら、どこかで一度挫折し、冷静さやデータと決別して熱く全力でレースに臨むような展開があるのではと思っていた。甘かった。イクノディクタスは熱さも全力も常に併せ持っていて、全部を駆使してはるかに高い次元に結実させ、未来を明るく照らしてくれた。
トレーナーも「〇〇してあげたい」という目線ではなく「このウマ娘にとって、そして全てのウマ娘にとって、ふさわしいトレーナーであり続けるにはどうするべきか」を常に考え行動しており、新人として背筋が伸びるシナリオ。
◆トランセンド
ギークで情報通な人懐っこいウマ娘。退屈な日常よりも刺激的な非日常を好む性格で、全国の様々なコミュニティに出入りしており交友関係が広い。トレーナーとはサブカル趣味を通して知り合い、気の置けない友人として会話や情報交換を楽しむところからシナリオが始まる。
彼女が走るモチベーションは、展開の読めないゾクゾクした興奮が本気のレースから得られること。トランセンド(他の誰より分かり合える存在だし、担当トレーナーになってくれないかな……)、トレーナー(他の誰より走る姿に心惹かれたし、スカウトしていいかな……)という両片想いの流れに、プレイヤーの心が乱される。
無事に契約を結びライバルたちと競い合って順調に成長していくが、あるとき突然の大地震が日本を襲う。学園のある地域は難を逃れたが、知り合いたちが暮らす北国は甚大な被害を受けた。退屈だと思っていた日常が失われる現実に直面したトランセンドは、募金活動や復興支援に取り組む一方で走る意味を見失ってしまう。しかし気高く走り続けるライバルや被災地の人と交わした言葉に支えられ、自分だけでなく誰かのために、大切な日常を取り戻すために、今できることを模索しながら再びレースに挑む。
史実に基づいて東日本大震災を織り込んだシナリオは直接的な描写こそないものの、被災地とその他の温度差や無力感、そして柔らかな希望を丁寧に描いている。トランセンド自身は濃いキャラクターでありながらどこかリアリティラインを踏み越えてくるような実在感があり、シナリオと相まって近しい誰かの生き様を本当に見守っているような気持ちになった。
(余談)(トランセンドは私がウマ娘を始めてから最初に新規実装されたウマ娘であり、それまで他シナリオの端役にすら登場していないため歴戦のトレーナたちにとっても初見で、そんな子を何気なく回した10連で一発で引いてしまったので運命を感じたし、今後ずっと特別な思い入れを抱き続ける予感がしている)(恋かも)