2023年11月18日(土)、BEYOOOOONDS主演舞台『ビヨスパイ~消えたアタッシュケース~』の東京公演を2回観劇した。
ここを見てくれている方向けの感想(ネタバレ少なめ)と、自分用の感想(ネタバレあり)にざっくり分けるので任意の分量までお付き合いください。

BEYOOOOONDS(ビヨーンズ)とは、モーニング娘。と同じハロー!プロジェクトに所属する12人組の女性アイドルグループである。コミカルな歌とダンスに寸劇を加えた独自の世界観が特徴で、年に一度は本格的な舞台演劇もおこなっている。今回の舞台の公式HPはこちら↓
◆ここを見てくれている方向けの感想(ネタバレ少なめ)
物語の舞台は、戦争によって国が東西に分かれてしまったパラレルな日本。東西それぞれの国に仕える若きスパイたちがアタッシュケースを巡る任務に奔走し、街の貧乏兄妹や世界的マジシャンを巻き込みながら運命に翻弄されていく。
BEYOOOOONDSのこれまでの舞台といえば、不思議の国のアリスやアラビアン・ナイトをオマージュしたり実在の偉人が現代に転生やタイムスリップしたりと、既存の物語や人物をモチーフに据えたものが多かった。しかし今作は銃とスパイとマフィアと爆弾と東京タワー!というソリッドかつオリジナルな世界観で統一されており、新鮮な没入感がある。
犯罪に手を染める描写ができるようになったのは、メンバー全員が成人してお姉さんなグループに成長したことが切っ掛けだろう。ビールを煽ったりワインを嗜んだりと大人なシーンも様になっている。
大きな見どころは以下三つ。
役者の半数が男装(各々所作が素晴らしい)
あちこちに仕込まれたマジック(客席参加型もあって楽しい)
所狭しと立ち回る多人数の本格アクション(目が全然足りない)
さらには複数の劇中歌とダンスまで披露するので(そういえばこれが本業なのだ彼女たちは)、たった一ヶ月ほどの間にどれだけ心血注いでここまで来たのかと、客演含む役者の皆さんとスタッフさんの仕事に感嘆するばかり。
笑える要素を織り込みつつも軸となる世界観は重く、登場人物たちの苦しい境遇や迫られる選択に思いを馳せる後半の展開は胸に響くものがあり、エンターテインメントとしてバランスの取れた脚本と演出も素晴らしかった。
翌週にはBEYOOOOONDS舞台初の大阪公演が控えており、東西に分かれた日本の設定を生かして演出が変わるのではと期待してそちらのチケットも取ってある。円盤には東京・大阪両公演が収録されるという発表もあり、楽しみはまだまだ続く。
追記:大阪公演で演出に変わりはなかったものの、回替わり部分もカーテンコールもアフタートークも、何より洗練されていく本編も素晴らしかった。チケットと休み取って良かった〜〜
◆自分用の感想(ネタバレあり)
ストーリー
ひょんなことから西日本のスパイ訓練生になった主人公ミカとその同僚たち。アタッシュケースを運ぶ任務の途中でトラブルに巻き込まれ、東日本のスパイ・貧乏兄妹の兄・世界的マジシャンのアタッシュケースが入れ替わってしまう。その中には戦争の引き金となりうる宝石や、爆弾を起爆する通信機が含まれていた。
アタッシュケースを取り戻すべく街を駆けるもすれ違い続けて刻限が迫る中、東西のスパイと訓練生たちはお互いが孤児院時代の仲間だと気づく。軍の駒となり命を軽んじる東のスパイにかつての仲間の声は届くのか? マフィアに追われる兄に妹の想いは響くのか? マジシャンのマジックは無事成功するのか?
観客も騙されてしまうほど目まぐるしく入れ替わるアタッシュケースを軸にした展開が楽しい。「消えたアタッシュケース」ではなく「増えたアタッシュケース」なのでは……?と観客全員が思っただろう。
あの堅物レンがうまうま棒を詰め詰めしてるの想像するだけで愉快。
みんなが観劇後にマンゴーパフェ食べに行く気持ちが分かった。
ミカが特殊能力で活躍するのをもっと見たかった気持ちもあるけど、新人が無双する話にせずエッセンスに留めた判断が素晴らしい。
スパイの攻防に終始せず、貧乏兄妹やカフェ店員など街に生きる人々がストーリーに絡むことで世界の手触りを感じられた。兄妹の真に迫るやりとりは一番好きなシーン。
マジシャンとマネージャーも賑やかしだけでない重要な役回り。オフでもずっとわちゃわちゃして可愛いしお互いにも他人にも優しい二人のことが好き。
どの登場人物にも存在感と意味があり、どの言動や選択にも納得感があって、ちょっと力業なところさえ愛嬌に感じられる脚本。振り返れば振り返るほどいい舞台だった。
登場人物(敬称略)
ミカ/島倉りか
西の新人スパイ訓練生。明るく元気な主人公らしく表情豊かでコミカルな演技、溌溂とした発声や歌声も華やかで物語の導入役として素晴らしかった。やけ酒煽って飲んだくれているところまでもかわいい。
リョウ/前田こころ
西のスパイ訓練生。世界観を体現したような立ち姿のクールさが目を引くが、ミカの奔放さに振り回されたり土下座が似合ってたりしてまだ訓練生なんだな~という隙や根っこの優しさが感じられる。
ユキ/西田汐里
西のスパイ訓練生。「私きっとスパイなんて向いてないよ……」と声を震わせながらの仁王立ちは名シーンでありつつ、虎視タンのフェイクや秋ツアーのきのたけを彷彿とさせた。芯のある役がとにかく似合う。
リサ/高瀬くるみ
西のスパイ訓練生。トリッキーな名脇役が多いくるみんが今回も難しい役どころを魅せてくれた。あらためて注目すると細かい仕草が全て伏線に見えるし、彼女なら全てが計算ずくだという信頼がある。
レン/平井美葉
東のスパイ。命を捧げる覚悟で自分を縛り律し続ける堅物。ダンスで培った体幹から繰り出すハイキックも、唇を噛みながら言葉を絞り出す苦悩の表情も、目で追わずにはいられない存在感と説得力があった。
マコ/里吉うたの
東のスパイ。任務中でも明るく振る舞える胆力が魅力でありつつ、パフェにはしゃぐ姿から東での抑圧された生活を想像させられて逆につらい。そして「お仕置きよっ」のかかと落としが美しい。実写セーラームーンじゃん……
ハルカ/江口紗耶
東のスパイ。「女スパイ」を体現するようなスタイルの良さが画になりすぎる。レンマコのバランサーとして立ち回り、マンゴーパフェの追加注文やサングラスを舞台袖に投げる様も姉御っぷりが際立って素敵だった。
Mr.ショウ/山﨑夢羽
世界的マジシャン。圧倒的ビジュアルと軟派さで誰彼構わず夢中にさせる天才。顔が良すぎと思っていたが性格までいいんかい。スパイじゃないのにビヨスパイの顔になってるあたり並々ならぬスター性を感じる。
一条/一岡伶奈
敏腕マネージャー。回替わりのアドリブでは「お」の一文字で「あ、今の一条じゃなくていっちゃんだな」と会場中が理解し、一言発する度に笑いが巻き起こって本当にこれは誰にでもできることじゃない。貴重な癒し枠。
ケイ/清野桃々姫
貧乏兄妹の兄。登場からカーテンコールに至るまで一瞬もアイドルとしての姿を思い出す瞬間が無く、ケイがそこにいるだけで暗くうらぶれた街並みが背景に広がった。幸せに生きてほしい。個人的MVP。
ナナミ/岡村美波
カフェ店員。完全巻き込まれ一般人ながらも覚悟を決めて宝石を届けるまでの成長が描かれ、キュートなソロ曲も貰って大活躍。ビヨメンが常々感じている「守りたい、この笑顔」がそのまま殺陣になっていて良かった。
ヒカル・メグ/小林萌花
語り部+記者+貧乏兄妹の妹。役だけでなく歌やダンスまで男女を演じ分けており、立ち姿も発声も全くの別人で驚いた。好青年感とチャラさの黄金比みたいな男装が思いがけず刺さってしまったのでもっと見せてほしい。
アキラ/汐月しゅう(客演)
西の教官。元宝塚男役の方で豊かな声量と堂々とした存在感に圧倒された。厳しくも思いやりに満ちた姿に加えて茶目っ気や人間味も感じられて魅力的。舞台の内外でメンバーの良き導き手になってくれたことに感謝です。
大塚優希・田畑渚・福田楓・瑚菊(JAE/客演)
マフィアや店員など世界観と物語に欠かせない役を担ってくれた皆さん。アクロバットはかっこいいし殺陣には悪役らしい凄みがあって、役者一覧のお姉さんたちと舞台の姿が全く結びつかない。すごい……!
良かったこと
11:30~の回、ショウ君が「このキャビア……いやトリュフもトレビア〜ンだな!」と言い間違いをカバーしたところ、椅子移動も含めコミカルすぎて笑いが起きた。
11:30~の回、回替わりマジックは一条が担当するも一言一言が全部一岡すぎて会場中が爆笑。見えないトランプに協力したお姉さんもシャッフルしようとして「あ、それ箱に入ってるんで出してもらって…」「!?」てなったのが良かった。トランプが舞台下まで飛んでいったり、カバーのため別のマジックを披露したショウ君のマジックもぐだぐだで最高。
11:30~の回、ケイがぶちまけたうまうま棒が段差のすぐ下の見えそうにない場所に落ちてしまったのに、ちゃんと回収してケースに詰め込んだの地味にすごい。必死な演技の中で本数を数えているのか、飛んでいったのを見逃さなかったのか。
11:30~の回、カーテンコールはレン役の美葉ちゃん。うろ覚えだけど
「レンは幼い頃きっとすごく真っ直ぐな子だったと思う/それが裏目に出て国家の駒として働く堅物になっちゃったのかな/きっとたくさん辛い思いをしてきたし、任務でか粛清かは分からないけど命を落とすのも仲間を見てきたはず/描かれていない人生をみんなと話し合いながら探ってきた/レンとして、レンに一番近い存在として、最後まで頑張りたい」
ということを涙をこらえながら話してくれた。思いがこみ上げすぎて「これ千秋楽?」と自分でつっこんで笑いを取りながら立て直す姿に成長を感じてこっちが泣く。エンタメとして楽しかった~~!な気分でいたので、役に込められた気持ちの強さに背筋が伸びた。
15:00~の回、アキラ中佐が卓球を空振りしたが「うむ」とばかりに頷いてしれっと打ち直したのが可愛かった。
15:00~の回、ヒカルに悟空のモノマネを振られたショウ君が「おっす」「おっす?」「おっす!」ってチューニングしてたのが良かった。「てめえらに会えるのが楽しみでワクワクすっぞ!」←口が悪い
気になったこと
西におけるスパイの位置付け。子供がなりたい職業ランキングに挙がるほど認知されているが、ミカの反応を見る限り映画に登場する公安やFBIのような現実感のない憧れ的存在なのかもしれない。比較的平和そうな西とはいえかなりの危険を伴う仕事だと思われるがミカはこの先大丈夫なんだろうか。ご家族とか。
リサが起爆役を任された理由。単に重要任務なので補佐と実行を分けているだけだと思うけど、二重スパイが西にばれるなどして三重スパイになってしまう、または既になってしまっている可能性を鑑みての踏み絵または口封じだったりするのかな。
東京タワーが消える意味は何だったのか。消えた後に壁の存在を強調していたので、東西を分ける象徴が消えて国がひとつになることのメタファーというわけではなさそう。東西を唯一行き来できるゲートの目印が消えたことで「もう東に帰れないし、帰らなくてよい」という東スパイの境遇を示しているのかなと現時点では思っている。
ヒカルという名前に必然性がなさそうだったこと。ただの偶然かな……
イッチの泪という名称。あとでイッチ=一岡説を聞いて大変な納得があった。
◆まとめ
森ビヨほど深く刺さって抜けないわけではないが、ビヨサイユのハッピーエンドに比べるとややビターな後味で、なにより良いエンタメを見た!!という爽やかな充足感に包まれる素敵な舞台だった。
想像の余地が残る脚本に、今回限りではもったいない魅力的なキャラクターばかりなので、これからもずっとこの世界にまだ浸っていたい。スパイたちに幸あれ。