2023年「富士山登山ルート3776」振り返り

しお
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公開:2024/7/10

昨年2023年7月7日~7月10日の4日間、友人たちと3人で「富士山登山ルート3776」を歩いた。これまでの記事でも時々触れたほど思い出深い山行だったので、登頂から1年経ったタイミングで振り返ろうと思う。長いです。


◆ルート概要

「富士山登山ルート3776」は、海抜0mから富士山頂3,776mを目指す全長約42kmの登山ルート。別名「ゼロ富士」とも呼ばれる。静岡県富士市が2015年に設定し、道路標示やスタンプラリーを設置して官民共同で挑戦者を歓迎している。

起点は2箇所から選択。街中を歩き、山麓を進み、登山道に入って森を抜け、富士宮登山ルートに6合目で合流して頂上を目指す。

3泊4日で4日目の登頂が推奨されており私たちはその通りに歩いたが、体力次第で3日、2日、中には1日で走り切る猛者もいるようだ。すごすぎ。


◆経緯

年始に地元の低山を登ってツイッターに載せたら、それを見たKさんが「ルート3776やってみない?」と声を掛けてくれた。自分に登れるのかとしばらく悩んだが、これを逃せば一生チャンスがないと思い参加を決意。Lさんも誘って三人で登ることになった。

  • Kさん 体力◎、行動力◎、登山経験の多いリーダー。富士山は初めて。

  • Lさん 体力〇、身軽さ◎、日帰り登山やキャンプが好き。富士山は初めて。

  • わたし 体力×、気合い△、登山は昔ちょっとだけ。富士山は初めて。

登山用品を買い直し、重いザックでの日帰り登山や日々の踏み台昇降で最低限の体力をつけようとしたが付け焼刃に終わり、あっという間に当日を迎えた。


◆1日目 街中を歩く12.4km

ルート:起点「ふじのくに田子の浦みなと公園」(0m)→大淵エリアの宿「よもぎ湯」(342m)

天気は晴れ。うっすら青くそびえる富士山が見えている。あそこまで歩いていくのか。本当に? でかすぎて逆に近く見えるまである。

友人たちは新幹線で当日集合。私は車で前日入りして最寄り駅近くの駐車場で眠り、そのまま車を置いて集合場所へ向かった。

起点となる「ふじのくに田子の浦みなと公園」にはスタンプラリーの台帳、ガイドマップ、挑戦者向けのゼッケンなどが設置されている。早めについて入念にストレッチをし、友人たちと合流。「完全にゼロから出発しよう」ということになり、一度砂浜に降りてから歩き始めた。

集合が昼だったので、まずは漁協の食堂で昼食。市場の方が「富士山行くの?氷持ってきな」とかちわり氷を袋に入れて持たせてくれた。7月上旬の富士市は湿度も相まってむせ返るような暑さ。溶けた氷で水分補給しながら街を歩いた。少し迷う箇所もあるが、道に表示があり助かる。途中のコンビニで「富士山が好きすぎて引っ越してきた」という女性に出会い、塩飴をおごってもらった。

じわじわと標高が上がっていく中、あまりの暑さに街中を抜けるかどうかの頃に足が攣ってしまってさっそく迷惑をかけた。余分な水を捨てて荷物を軽くしたり、葛根湯を分けてもらったりしながら最後のコンビニで食料など買い出し。街を抜けて山麓地帯の入り口にある「よもぎ湯」に到着した。

「よもぎ湯」はルート3776の推奨宿。運動部が夏合宿してそうな雰囲気で、洗濯物も引き受けてくれた。この日は他に客がおらず、風呂とカレー定食で疲れた身体を休めた。


◆2日目 山麓の林道を歩く14.8km

ルート:大淵エリアの宿「よもぎ湯」(342m)→山麓のキャンプ場「PICA表富士」(1143m)

「よもぎ湯」で朝の和定食をいただいて出発。この日は朝から雨で早々にカッパを着た。霧に包まれた林道を延々と歩く。昨日の疲れが残っており傾斜も強くなるため、早めにトレッキングポールを取り出した。雨で体感気温が昨日より低いことだけが救い。

途中、後ろから来たお姉さんに「ルート3776ですか?私もです!」と声を掛けられた。一人で心細かったから会えて嬉しいと喜んでくれたがとても山慣れた雰囲気の方で、お気をつけて!とずんずん先へ進む背中を見送った。このお姉さんとは後2回会うことになる。ほか、ルートを逆走しているお兄さんにも出会った。

歩いて歩いて夕方ごろ目的地「PICA表富士」に到着した。コテージ泊の受付を済ませ、シャワーと洗濯と夕飯。Lさんが持ってきた試供品のシャンプーを三人で分け合ったり、コテージ内で洗濯物を干すためポールを組み合わせて試行錯誤したりと泥臭い夜を過ごす。予約すればBBQも出来る場所だがいざ歩いてたどり着くとそんな元気はなく、インスタント食品を湯で戻して食べた。

翌日から本格的に登山が始まるが、既に足が棒のようで心配。


◆3日目 林道を抜けて登山道を登る11.6km

ルート:山麓のキャンプ場「PICA表富士」(1143m)→新七合目「御来光山荘」(2792m)

この日はほぼ曇り。夕飯の残りを食べて早朝に出発。林道の続きを5kmほど歩くと旧料金所ゲートがあり、その脇から登山道が始まる。

しばらくは山麓の森の中を進む。小さな沢を渡ったり、鹿の骨を見つけたり。傾斜が緩く涼しくて助かるが、登山道では当然集中力が必要だし、3日目で足の疲れも溜まっていて休憩のたび立ち上がるのが大変だった。

ここはまだ富士登山のメインルートではないためほぼ誰とも会わなかったが、森を抜ける手前で2日目のお姉さんが再度後ろから現れて「昨日お会いした方ですよね!」と声を掛けてくれた。お姉さんはルート3776に2泊3日で挑戦中とのこと。私たちが2日かけて歩いた道を1日で進んで同じキャンプ場に泊まった上、朝ゆっくり出発してもコースタイムを縮める体力があるようだった。

お姉さんを見送るとやがて森林限界を越えて視界が開けた。右手に宝永山を望み噴火口の淵を進む。大小の石で埋め尽くされた不安定なザレ場、突然の急斜面、稜線に吹き付ける強い風。登山道は広いのでさほど危険がはないが、飛ばされでもしたらすり鉢状の噴火口に転落してしまう。斜面に張り付いて一歩を踏み出すが、重なった砂礫がずるりと滑って進まない。急斜面の終わりがすぐそこに見えているのに、永遠に辿り着けないかと思った。BEYOOOOONDSの『求めよ…運命の旅人算』を口ずさみながらなんとか登った。

ようやく富士宮ルートの六合目に合流し、山小屋のベンチで休憩。宿泊予定の新七合目の山小屋がすぐ近くに見えるが、先ほどの斜面で足に限界が来ていた。ここから進めばもう逃げ場がない。今なら富士宮ルートの五合目に降りて麓行きのバスに間に合う。二人に迷惑を掛けないように帰ろうか。正直帰りたいな。

ぎりぎりまで迷ったし迷っていることを二人にも伝えたが、休んで水分補給すると少し回復。今登らないと一生登れないと思ったので進むことにした。

しかし山小屋の手前でお腹まで痛くなったので二人には先に行ってもらい、正露丸を飲んで休みながら時間をかけて登った。へばっている私を心配してくれた日本人男性と東南アジア女性の二人組、陽気なお兄さんと穏やかなお兄さんの二人組とそれぞれ仲良くなり、山小屋も同じなので休憩しながら色々話をした。

夕飯の時間までになんとか「御来光山荘」に到着。カレー弁当を頂いた。まだ明るいが山頂での御来光を目指して深夜出発予定の人たちは既に就寝している。私たちは山小屋で朝日を見てから出発予定なので、ロビーで山小屋の雰囲気を楽しんだ後、暗くなってから就寝した。


◆4日目 山頂へ上る3.2km+下山8.5km

ルート:新七合目「御来光山荘」(2792m)→富士山頂剣ヶ峰(3776m)→富士スバルライン五合目登山口(2310m)

天気は晴れ。一緒に泊まった人たちと山小屋から見事な朝日を拝むことができ、これまでに歩いた麓の森や町まで見渡せた。遮るものがない富士山の山肌はとにかく風が強く、空気が冷たい。防寒対策をして出発した。

ここから先はひたすら砂利の斜面と岩だらけの山道が頂上まで続いている。足は疲れているものの、岩場を登る筋肉はこれまで使ってないので意外と元気。どちらかというと高山由来の心肺への負荷を感じ、時々うっすら頭痛も感じたので深呼吸しながら登った。

この日は富士宮ルートの開山日だったが、月曜日だからかご来光目的とは時間がずれているからか、登山者はさほど多くない。後ろが近づいたら追い越してもらい、2~3組過ぎれば間が空くのでまた登るのを繰り返して焦らず進むことができた。ニュースで見る休日の吉田ルートのような行列登山なら絶対に無理だった。この日程を組んでくれたリーダーに感謝した。途中3人で分けて食べたカップヌードルシーフード味が最高に旨かった。

昼ごろ、ようやく富士宮本宮 淺間大社奥宮に到着。開けた場所は各ルートから集まった人たちで賑わっていた。既に達成感がすごいが山頂剣ヶ峰まではあと少し。時折晴れ間も見えるが強風と霧で辺りはほぼ真っ白。難所と言われる最後の急登には恐怖を感じたが、無事剣ヶ峰に到着した。

登れた~~~。

山頂はさほど広くはないが、少しの間なら滞在できるスペースがあったので、軽食を取りながら日本最高峰を満喫した。

山小屋が同じだった日本人男性と東南アジア女性の二人組とも一緒になり健闘を称え合っていると、そこに現れたのは2日目・3日目に我々を追い越していったお姉さん。まさか山頂で再会できるとは……!お姉さんもびっくりしながら喜んでくれて、全員で記念写真を撮った。

お姉さんは毎年富士山を登っている山好きで、ルート3776は今年が初挑戦とのこと。なんと私の家のすぐ近くに住んでいたことがあるらしく、「〇〇町の〇〇って店分かります?あそこでバイトしてて…」「えっわかります!」と富士山のてっぺんでローカルな会話が発生して楽しかった。

帰りの時間が迫るので名残を惜しみながら別れ、お鉢巡りを反時計回りに半周し、東北奥宮にお参りしてから山梨側へ降りる吉田ルートで下山した。振り返ってみればあっという間だったが、この下山がとにかく辛かった。

富士山の下山といえば「砂走り」「大砂走り」と呼ばれるつづら折りの砂利道。富士登山マラソンで選手たちが飛ぶように駆け下りていくのを見ていったいどんな場所なんだと昔から不思議だったが、全ての謎が解けた。深くて傾斜のある砂利道は、そのつもりがなくても駆け下りてしまうのだ。最初のうちは楽しいのだけど、これまで酷使した足に負荷は掛かり続ける。足首が悲鳴を上げるが道はどこまでも折り返しながら続いている。降りても降りても終わらないのに日が次第に落ちていく。

唯一の救いは途中から霧を抜けて再び晴れたこと。登ってきた道と反対側なので山中湖を始めとする山梨側の雄大な景色が新鮮に広がった。もはやブレワイの世界。この時の景色が一番綺麗だった。おかげでなんとか足を動かし続けることができた。

しかし砂利道を抜けて日が落ちる頃には天気が崩れて雨に襲われた。富士スバルライン五合目登山口に到着した頃には満身創痍になっており、立っていることさえ難しかった。

Kさんが呼んでくれたタクシーに迎えに来てもらい、Lさんが探してくれた川口湖畔の宿に着いて、夕飯も食べずに転がり込んだ。あまりにも二人におんぶに抱っこなのでせめてものお礼にアイスを奢って乾杯した。露天風呂に4日間の疲れを溶かし、泥のように眠った。


◆5日目(下山後)

この日は雨が通り過ぎて爽やかな快晴。宿の部屋から富士山が綺麗に見え、昨日はあそこにいたんだねえと三人でしみじみしながら布団でごろごろして互いを労った。足の豆と全身の筋肉痛がひどいけれど、膝や腰などに問題はなく身体が頑丈で良かった。

Kさんは用事があるとのことで先に帰路につき、予定のないLさんと私は宿を出てから河口湖畔を散歩したり、ほうとうを食べたりして、ただただ穏やかな休日を過ごした。歩き詰めだった4日間が嘘のようだが、この満たされた気持ちとエピローグ感はその4日間あってこそのものだ。

夕方前に河口湖駅で解散。私は高速バスで静岡側に戻り、車を拾って家に帰った。途中で本栖湖に寄り道し、ゆるキャン△でなでしことリンちゃんが初めて出会った場所を訪れるなどして富士山との名残を惜しんだ。本栖湖越しに見る富士山は今までと全く変わらないが、自分にとって特別な場所になったことを感じていた。


◆備忘録

  • ルート:「富士山は単調なので一度登れば十分」と聞くことがあり、確かに6合目以降と下山は単調さを感じた。しかしルート3776ならそれも全体の一部で、街あり林道あり森ありと様々なロケーションを楽しめた。環境変化や気温差が激しいので靴や服装などの工夫が必要。

  • 日程:公式推奨の3泊4日はかなり余裕を持った日程なので、健脚の方は起点~PICA表富士まで1日目で歩くのがよさそう。調べてみると4日かける人はかなり少ないようだった。推奨ルートには下山が含まれていないので最終日の計画は慎重に。

  • 食料:疲れていると思った以上に食事が喉を通らなかった。尾西のアルファ米やプロテインバーが全然食べきれない。ようかん、携帯わらびもちなどはおいしいが喉が渇く。栄養ゼリー、チーズちくわ、あと柿の種がめちゃくちゃおいしく感じた。

  • 湯:富士山は火を使える機会が限られているが、パーティにひとつ湯沸かしセットがあると保温ボトルと組み合わせて絶大な威力を発揮する。フリーズドライのスープや麺類、なんといってもカップヌードルがとにかく嬉しい(これも2~3人で分け合うくらいがちょうどいい)。あたたかいものはおいしい。飲み物は甘いチャイが好き。

  • 水:重さで体力を奪われるので、値段は高いが山小屋でペットボトルを買い足すことを前提に計画的に飲むのが大事。私は予備の水が多すぎたので途中で捨てた。暑さや体質にもよるが1日に2~3L飲んだ。頂上に近づくと気温が下がり消費量が減る。足を止めずに飲めるハイドレーションがあると助かる。

  • その他補給:塩タブレットの個包装を剥いてまとめて袋に入れ、オヤツ代わりに食べた。あと顆粒タイプのアミノバイタルを1日3本飲んだ。これがないと歩けなかったと思う。正露丸と低気圧用の薬も持参。友人たちは葛根湯への信仰が強く、2回分けてもらった。すごく効いた気がする。

  • 装備:標準的な装備だがトレッキングポール、指ぬきグローブ、帽子などは有難みを感じる場面が多かった。下山で特に重要だったのはゲイター。砂走りをこれなしで絶対通りたくない。強風で砂が吹き付ける場面も多かったので、マスクやフェイスカバーがあるとなおよい。私は手ぬぐいで代用した。

  • カメラ:体力のない身なので一眼レフを持っていかなくて正解だった。ただスマホを気軽に出し入れできるポケット等がなかったので専用ホルダーが欲しかった。

  • その他:

    • 持ち物は全部フリーザーバッグに入れるのがよい。

    • 登山用地図アプリは全員必須、私はYAMAPを使用した。

    • 舗装路を登山靴で歩くか、荷物を増やして運動靴で歩くかは人による。

    • 酸素缶は山小屋泊なら不要、日帰りならあると安心かも。

    • トイレ用の100円玉は重いけどたくさん持って行くと安心。

    • 一緒に写真を撮る推しがいると楽しい。二人はアクスタ、私はカニ🦀


◆最後に

「いま富士山にいる人の中で私が一番体力ない」と確信に満ちた弱音を吐きながらも、友人二人にたくさん助けてもらって無事富士山を登って降りることができた。誘ってくれたことを含め何から何まで本当にありがたかったし、自分の駄目さも痛感したし、それでも諦めなくて良かったと思う。

ルート3776に挑戦したことのある方。すごいです、お疲れ様でした!

ルート3776にこれから挑戦する方、するかもしれない方。信頼できる情報源に当たってしっかり調べて、そしてたくさん楽しんできてください!

どっちでもない方、ここまで読んで頂きありがとうございました!

@m_shiroh
140文字以上の文章を書く練習をしています。自己紹介代わりの記事リンク集はこちら→ sizu.me/m_shiroh/posts/kk0dbd40xv71