理想の生活

しお
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昨日ある人の自宅兼事務所を訪問した。

移住人気の高い景観のきれいな田舎町の片隅に建つ一軒家。すぐ近くに清流が流れ、目の前には田園風景が広がる。自然と調和しつつもおしゃれな佇まいの住宅は無垢材を贅沢に使用しており外観も内装もデザイン性に優れ、断熱にもこだわっているため広い室内は冬でもあたたかい。家主が自ら設計した家だ。

モニタ前に陣取る猫とマウスにじゃれつく猫とキーボードをまたぐ猫をいなしながら仕事をし、時々ストーブで沸かしたお湯でコーヒーを淹れて足元の犬を撫でる。まさに理想の生活だ。

しかし本人は、勤めていた会社に解雇され、人間関係にも疲れて個人事業主となり、なんとか食っていけてはいるがローン返済の先は長いし、結婚したいけど当てがないと笑っていた。手に職を持って個人で食える技量と行動力があることは素晴らしいし、あくまで自虐に過ぎず十分満足しているようにも思えるが、傍目に見える理想の生活と本人談との落差を感じた。理想の裏には人それぞれの苦労があるものだ。

ところで猫たちは実にかわいかった。皆なつっこくであたたかくてふわふわで……手を舐められたり首元を撫で返したり背中によじ登られたりした。やわらかな感触を一日中反芻して過ごした。またあの猫たちに囲まれに行きたい。私も囲まれて生きたい。

うーんやっぱり理想の生活だな……。

@m_shiroh
140文字以上の文章を書く練習をしています。